私法上の権利。法律は,理論的に公法と私法とに大別できる。公法は,国家社会と国民の間を規律するものであり,この公法上の権利を公権という(例えば,国家の刑罰権,統制権など,国民の参政権,受益権など)。これに反し,私法は,市民社会における私人相互間の法的な権利義務関係を定めるものであり,この私法上の権利を私権という。これには,借金の返還請求権や土地建物の明渡請求権,交通事故の損害賠償請求権,さらには所有権や特許権などのような財産権と,親子・夫婦間の権利義務や相続関係などのような身分権とがある。これらの私権をもつことができるものは自然人と法人とである(民法1条の3,33条以下。この能力を権利能力という)。
いずれにせよ,私権はその権利者の私的利益の追求のために認められるものであるが,社会共同生活に由来する私権の社会的性質からして,その権利行使は,必ずしも無制限に認められるものではない。まず,公共の福祉によって制約され(例えば,土地収用),さらに権利の行使と義務の履行は信義に従い誠実にすることを要し(信義誠実の原則),また所有権などの行使も,その濫用は許されない,とされている(民法1条。権利濫用)。
執筆者:好美 清光
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私法上の権利の総称で、公法上の権利たる公権に対置される。もっとも、このように私法と公法とを区別することの必要性、さらにその区別の標準については、種々の議論があってかならずしもはっきりしておらず、したがって、私権および公権の概念もそう明確にはなっていない。しかし、いちおう次のようにいうことができる。すなわち、公権とは、国家的ないし政治的な公的生活を規律する法(公法)によって認められた権利であるのに対して、私権とは、対等独立な私人の間の関係を規律する法(私法)によって認められた権利である。たとえば、財産権(物権・債権・無体財産権など)、身分権(親族権・相続権など)、人格権、社員権などは私権の例である。
19世紀的な個人主義・自由主義の法思想の下では、私権の行使は自由と考えられていた。しかし20世紀的法思想の下では私権の行使には社会的制約が伴う。このことを、憲法は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」(29条2項)と規定して宣明し、民法は「私権は、公共の福祉に適合しなければならない」と表している(1条1項)。
[淡路剛久]
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