改訂新版 世界大百科事典 「野生の思考」の意味・わかりやすい解説
野生の思考 (やせいのしこう)
La pensée sauvage
フランスの人類学者レビ・ストロースの著作。1962年に公刊されると,たちまち多くの論議を呼び,現代西欧思想史の画期となった〈構造主義〉の時代の幕明けとなった。本書で彼は,トーテミズムなどにみられる未開人の心性と思考を,近代科学的思考と異なる非合理的なものとみる旧来の偏見を批判し,豊富な民族誌的資料と明晰な構造論的方法によって,それが〈野蛮人の思考〉ではなく,〈栽培思考〉(文明化した思考)に対する〈野生の思考〉であって,それ自体精緻な感性的表現による自然の体系的理解の仕方であり,〈具体の科学〉であることを明らかにした。それは,西欧の自己中心主義的認識原理と歴史観の批判・反省を喚起し,サルトル哲学の批判を含む60年代の西欧思想の転換に決定的な影響を与えた。またレビ・ストロース自身にとっても,本書はより本源的な神話的思考の探求の序章となった。
執筆者:荒川 幾男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報