フランスの文化人類学者。構造主義者。レヴィ・ストロースとも表記される。パリ大学法文学部卒業後、ブラジルのサン・パウロ大学社会学教授(1935~1938)、ブラジル奥地の調査(1935~1939)、ニューヨーク新社会研究学院教授(1942~1945)、アメリカ合衆国在住フランス大使館文化顧問(1946~1947)、パリ大学高等研究院指導教授(1950~1974)、コレージュ・ド・フランス社会人類学正教授(1959~1982)などを歴任。1973年5月24日アカデミー・フランセーズ会員に選ばれる。オランダ、イギリス、アメリカなどのアカデミーの会員に選ばれたほかに、フランスのレジオン・ドヌール三等勲章受章をはじめ多くの賞に輝き、オックスフォード、エール、シカゴ、コロンビア諸大学の名誉博士号を与えられた。
レビ・ストロースの業績は大きく三つの領域に分けることができる。第一は親族構造、第二は分類の論理ないし「野生の思考」、第三は神話の構造である。第一の親族論においては、婚姻規制と親族体系を一種の言語、つまり個人間・集団間のコミュニケーションを可能にする一連の過程とみなす。そしてコミュニケーションの媒体となるものは「女性」であり、親族集団間に「ことば」と同じように循環される、と論ずる。彼は婚姻規制の多様性の背後に少数の原理を抽出し、親族体系においては出自よりも婚姻規制がいっそう重要であることを示し、婚姻規制と親族名称との間に密接な関係があることを明らかにした。さらに彼は、親族体系を経済的条件によってではなく、精神構造によって説明しようとした。ただし、「女性の循環」が行われるような親族構造を親族の一般理論として拡大する点については、のちにR・ニーダムやE・リーチによって批判された。
第二の分類の論理については、まだ人間が科学技術文明の思考に影響される以前の人間の思考を、未開人の動植物の分類などを通じてとらえようとする。特定の動植物を集団の始祖として、これを食べることを禁ずるトーテミズムという制度に関する従来の機能主義的な解釈の妥当しない点を指摘し、特定の動植物が自然界から選ばれるのは、それが経済的に価値があるからではなくて、社会の区分や関係を表すためであると論じ、トーテミズムの原理は、対立するものの統合にあると考えた。これにはフォーテスらによる批判があるが、それにもかかわらず、彼のトーテム研究は従来説明できなかった現象の解明に新しい光を投ずるものであろう。
第三の神話の研究においては、アメリカ大陸先住民の800以上に上る数の神話の研究を4巻のいずれも浩瀚(こうかん)な著作にまとめあげた。南アメリカの先住民の神話では、自然から文化への推移は、「生(なま)のもの」から「火にかけたもの」「料理されたもの」への推移によって象徴されているのに対し、北アメリカの神話では、自然から文化への推移は、衣類、装飾品の発明と、それに由来する品物の交換によって表されていると論じられている。
レビ・ストロースの神話研究によると、南アメリカの先住民の神話と北アメリカの先住民の神話との間には類似性がある。両大陸の神話は、地域の環境や各集団の長い歴史の違いによってそれぞれ変形しているが、その基本的な骨組みにおいては同じである、という。南アメリカの神話では火の獲得は、高い/低い、天/地、太陽あるいは雨/人間という二項対立間の葛藤の解決によって行われる。ところが北アメリカの神話では、火はさまざまな品物の交換、共有、保持のなかに位置づけられており、これらの社会では妻を与える側と妻を娶(めと)る側との関係は天/地、高い/低いと等価である。そして火と女性は対立物ないし両極の媒介を図るものである。
神話学第4巻を1971年に刊行した後も、高齢にもかかわらず、筆を休めることなく、『仮面の道』(1975、1979)、『はるかなる視線』(1983)、『やきもち焼きの土器つくり』(1985)、『オオヤマネコの話』(1991)、『見る、聞く、笑う』(1993)、『ブラジルへの郷愁』(1994)を刊行しているのは驚くべきである。
『仮面の道』では、彼は北アメリカ北西沿岸部の先住民の用いていた儀礼用の仮面について構造主義的分析を適用している。この地域の人々の芸術を彼はかつて「象徴の森」(ボードレールの詩にあることば)であると述べたことがあるが、神話の研究で用いた方法によって、仮面と社会・宗教とが変形的な関係にあることを示した。『やきもち焼きの土器つくり』では、火の起源に関する神話をふたたび扱い、これと土器製作のための火の起源の神話を対比させ、食物を直接火にかける料理法は、食物を器に入れて料理する方法に発展する。土器作りの起源の神話は、多くの場合、料理の火の起源の神話の変換である。この変換は、神話のなかで、人間による火の獲得から、水のなかあるいは地下の霊界から人間への土器作りの技術の贈り物に力点が移動している。そして神話的思考は分析的思考に対立するものではなく、思考のメカニズムを拡大してみせると結んでいる。
レビ・ストロースの構造主義の広い影響のうち二、三をあげる。たとえば、イギリスのE・リーチの高地ビルマの社会構造の研究に構造主義の影響がみられるし、ルーベルPaula・G・Rubel(1933― )とロスマンAbraham Rosman(1930― )は構造主義のモデルをオセアニアの社会、習慣の分析に適用している。構造主義はフランスの思想界に影響し、ミシェル・フーコー、ピエール・ブルデュー、ロラン・バルト、ジャック・ラカンなどが生まれている。
[吉田禎吾 2019年1月21日]
『クロード・レヴィ・ストロース著、仲沢紀雄訳『今日のトーテミスム』(1970・みすず書房)』▽『クロード・レヴィ・ストロース著、荒川幾男他訳『構造人類学』(1972・みすず書房)』▽『クロード・レヴィ・ストロース著、大橋保夫訳『野生の思考』(1976・みすず書房)』▽『クロード・レヴィ・ストロース著、馬淵東一・田島節夫監訳『親族の基本構造』上下(1977、1978・番町書房/福井和美訳・2000・青弓社)』▽『レヴィ・ストロース著、川田順造訳『悲しき熱帯』上下(1977・中央公論社)』▽『山口昌男・渡辺守章訳『仮面の道』(1977・新潮社)』▽『三保元訳『はるかなる視線 1、2』(1986、1988/新装版・2006・みすず書房)』▽『エドマンド・リーチ著、吉田禎吾訳『レヴィ・ストロース』(1971・新潮社/ちくま学芸文庫)』▽『吉田禎吾・板橋作美・浜本満著『レヴィ=ストロース』(1991/新装版・2015・清水書院)』▽『渡辺公三著『レヴィ=ストロース』(1996・講談社)』▽『B. S. D'Anglure'Levi-Strauss, Claude', Alan Barnard & Jonathan Spencer (eds.) Encyclopedia of Social and Cultural Anthropology. pp.333~336.(1996, Routledge, London & New York)』▽『P. Rubel & A. Rosman'Structuralism and Poststructuralism', David Levinson & Melvin Ember (eds.) Encyclopedia of Cultural Anthropology. pp.1263~1272.(1996, Henry Holt and Company, New York)』
フランスの人類学者。パリ大学で法学と哲学を学び,はじめリセの哲学教師をつとめた。1935年サン・パウロ大学社会学教授としてブラジルに赴任し,ボロロ,ナンビクワラ等のインディオ社会の実地調査にあたった。その後いったん帰国したが,ビシー政権下をのがれて41年にアメリカへ渡った。所属先の〈社会調査のための新学院〉で言語学者R.ヤコブソンを知った。第2次大戦後帰国し,50年パリ高等研究院宗教科学部門を担当,59年コレージュ・ド・フランス社会人類学講座の初代教授となった。その構造人類学の特色は,ソシュール,ヤコブソンの構造言語学に示唆を受けて,音韻体系や詩的言語構造と類比的なモデルを文化現象に広く見いだすところにある。有限個の要素が一定の配列規則群によって無数の陳述をうみ,さらに隠喩と換喩の作業が詩的言語をうみだすように,文化の基本構造そのものが言語に似たコミュニケーション体系をなすとみる立場である。この方法は親族,分類,神話等の領域に機能主義以後の革新的な理解をもたらした。
主著には,女性を交換する互酬のコードを婚姻体系にみる《親族の基本構造Les structures élémentaires de la parenté》(1949),〈未開分類〉の論理構造を明らかにしてヨーロッパ人類学の認識論を相対化した《野生の思考La pensée sauvage》《今日のトーテミスム》(ともに1962),また〈料理の三角形〉や〈儀礼と神話〉論を含む大作《神話学Mythologiques》4巻(1964-71)などがある。ほかにも方法論集ともいうべき《構造人類学》2巻(1958,73)や,広い読者層を獲得した初期の内省的民族誌《悲しき熱帯Tristes tropiques》(1955)がある。とくに《悲しき熱帯》は,失われた人間と自然との結びつきをめぐるルソーを思わせる文明論的省察として大きな反響を呼び,また《野生の思考》は,文明化した〈栽培思考〉に対して,未開人にみられる〈野生の思考〉がそれ自体組織的な感性的思考による〈具体の科学〉であることを明らかにし,西欧中心の近代的思考体系への根底的反省を促して〈構造主義〉思想の展開を触発した。そこに開かれた認識の地平は人類学を超えて人文社会科学全体に方法論的反省をせまる深さをもち,記号論,象徴論の新たな動向をなお生み続けている。分離しがちな英米人類学とフランス民族学の伝統を結びつけた功績も大きい。
→構造主義
執筆者:関 一敏
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…交叉イトコは,男を基準にすれば,父の姉妹の娘(父方交叉イトコ)と母の兄弟の娘(母方交叉イトコ)に分けられる。レビ・ストロースは,母方交叉イトコ,および父方,母方双方をたどる双方交叉イトコとの婚姻が規則的に行われると,女性のやりとりを通じての集団間の連帯が超世代的に成立することに注目した。つまり図1のように双方交叉イトコ婚を行う場合には,2集団間でヨメを交換する関係が成立する。…
…逆にこれを拒否することは,友情と交際の拒絶や不信と敵意を意味することになる。
[モースとレビ・ストロースの解釈]
このような贈物の贈与・交換の現象は,近代社会における法的根拠に支えられた商業的経済行為とは異なり,むしろ儀礼的・道徳的側面が強調された慣習ないしは制度である。宗教的・経済的・法的・道徳的・社会的諸側面が複合的に混然としていて十分な分化に達していない,いわゆる未開社会では,経済的行為と儀礼的・道徳的行為が密接に関連し合いながらも儀礼的・象徴的側面が強調されることが多い。…
…リーチEdmund Leachも力点の違いこそあれ同様に,個々の社会によって色の分類とその意味体系は異なり,ある色の示す意味はそれと対比されている色との関係で,またその色の用いられる文脈との関係で決まることを主張した。 この色の分類に関する分析は単なる一例にすぎないが,ここに見られる構造主義的記号論の考えは,同じくシンボリズム研究を行ったレビ・ストロースの神話研究にも顕著である。すなわち,儀礼(神話も同様に)を宗教や信仰の領域から切り離して一義的に社会的機能や効用と結び付けるのではなく,むしろ儀礼をその社会の成員が共有している表現や伝達の手段,あるいはそのための装置と考えることである。…
…次にマリノフスキーらは,近親相姦が家族内の役割関係を乱し,秩序維持を困難にするので禁じられるようになったと考えた。レビ・ストロースはさらに社会全体からみて,婚姻による女性の交換は,家族や親族などの集団が他の集団との紐帯をもつのに最も有効な手段であり,その機会を確保するため近親相姦や集団内の婚姻が禁じられるようになったと主張する。彼はさらに,このような目的のために,動物界ではなんの規制もない生殖という生物学的現象に禁忌と義務という人為的な枠組みを与えることによって,初めて自然から文化への転換が行われたとさえ述べている。…
…日常的な用法では交換exchangeとは〈もののやりとり〉を意味しており,ある個人または集団が他の個人または集団になんらかのものを与え,それと引換えに他の個人または集団から別のなんらかのものを受け取るとき,交換が行われたという。そのさい最も広く考えれば,レビ・ストロース(《親族の基本構造》)が女性の交換としての婚姻形態を研究するなかで区別した〈限定交換〉,すなわち授受の相手が同一で,AがBに与え,BがAに与えるという形だけではなく,授受の相手が異なり,AがBに,BがCに,CがAにそれぞれ与えるというような形,つまり彼のいう〈一般交換〉をも交換に含めることができる。さらにまた,やりとりされる〈もの〉の範囲も物的対象,いわゆる財貨・サービス(以下財と略称)のみならず,後述の〈社会的交換〉にみるように権力や愛など非物的ないし精神的な対象にまで拡張しうる。…
…1960年代以降フランスで生まれた現代思想の一潮流。フランスの人類学者レビ・ストロースは,ソシュールに始まり,イェルムスレウらのコペンハーゲン学派やヤコブソンらのプラハ言語学派において展開された構造言語学や,数学,情報理論などに学びつつ,未開社会の親族組織や神話の研究に〈構造論〉的方法を導入して,構造人類学を唱えた。やがて1962年に公刊した《野生の思考》は,これまで非合理的なものとされていた未開人の〈神話的思考〉が,決して近代西欧の〈科学的思考〉に劣るものではなく,象徴性の強い〈感性的表現による世界の組織化と活用〉にもとづく〈具体の科学〉であり,〈効率を高めるために栽培種化された思考とは異なる野生の思考〉であることを明らかにして,近代西欧の理性中心主義のものの見方に根底的な批判を加えた。…
…たとえば日本における年玉,中元,歳暮なども,物質的次元でのバランスのみでは論じられない慣習である。また,婚姻システムを,集団間で女性を供与しあう互酬的慣行として分析したのがレビ・ストロースである。これには,二つの集団の間で女性がやりとりされる相互供与と,3個以上の集団の間で,いとこ婚を繰り返すことによって,世代ごとに女性が一定の方向に移動する型とが識別されている。…
… ナチス侵攻を前にしてヨーロッパから北アメリカに脱したヤコブソンは,第2次大戦後,情報理論やパース記号論の諸概念を導入して構造詩学の定式化を行う。《言語学と詩学》(1960)がそれで,この論文は戦後の構造詩学の出発点となったし,レビ・ストロースとの共同研究《ボードレールの〈猫〉》の構造分析は〈無意識的なものの意識化〉を目ざす構造主義の詩学の範となった。これより先,レビ・ストロースはプロップの《魔法昔話の形態論》やフォルマリズム詩学,プラハ言語学派の機能構造言語学の成果を踏まえてオイディプス神話の分析を行っているが,これはのちのC.ブレモン,A.グレマス,R.バルト,Ts.トドロフ,A.ダンダスらの物語構造論を生み出す端緒となった。…
…彼は〈全体的社会現象〉と呼ぶものを,最表層部の形態学的特性から最深層部の集合的精神状態まで10の〈深さの層位〉に区分し,社会構造とはそれらの層位が一時的・過渡的にバランスした一局面である,とした。またギュルビッチの社会の深層構造というアイデアと共通する構造概念は,フランスの人類学者レビ・ストロースの〈構造主義〉人類学によっても用いられている。レビ・ストロースのいう社会構造は,当事者であるその社会の成員自身によって意識されることのない,したがって直接にはそれを観察することの不可能な,いわばかくれた行為規則である。…
…とくに言語学(ソシュール,ヤコブソン,バンブニストら)と精神分析(S.フロイト,ユング,ラカンら)の影響の下に,象徴するものとされるものの自然的対応関係の解釈だけでなく,自然的関係を超えた象徴作用(シンボリズムsymbolism)そのものの探究が深められた。こうして,たとえばレビ・ストロースが,〈社会は,本性として,その慣習,その制度のうちにみずからを象徴的に表出する〉といい,〈すべての文化は,諸々の象徴体系からなる一個の統合体であり,その最前列に言語活動,婚姻規則,経済関係,芸術,科学,宗教が位置する〉(モース《社会学と人類学》への序文)と述べたように,象徴作用の探究は,構造主義や記号論的方法の深化とともに,人間的諸事象(流行や広告,都市化現象や政治言語などにまでいたる)の解明の中心課題の一つとなっている。記号【荒川 幾男】
【象徴の社会的意味】
世界を探究し,認識し,表現するために,また世界に働きかけるために,象徴を用いる度合と仕方は社会と文化によって異なる。…
…怒ったイザナキによって地上から追放されると,彼は高天原に昇って行って,そこでさんざん乱暴を働き,しまいに太陽女神のアマテラスが岩屋に隠れてしまう〈天の岩屋戸〉の事件を引き起こして,世界中を真暗やみに陥れたと言われている。 フランスの人類学者で,現代における神話研究の最高権威者の一人であるレビ・ストロースは,このスサノオの話とうり二つと言ってよいほどそっくりな話が,南アメリカのアマゾン地方の原住民たちのあいだに見いだされることに注目した。レビ・ストロースがあげている話の一つでは,主人公はスサノオと同様に母の死後に水の中に出生し,水から引き上げられても,父を憎悪して〈まるでいま生まれたばかりの赤子のように〉いつまでも激しく泣き叫び続けた末に,天に昇って行き,アマゾン地方では人間の病気の原因と信じられているにじになったとされている。…
…しかしその立場から著された《金枝篇》に代表されるイギリスの古典学者・人類学者J.G.フレーザーの膨大な著作は,神話研究にとってきわめて貴重な資料の集成として,高い価値を現在でも失っていない。 現在の神話学を代表する権威の双璧は,フランスの比較神話学者デュメジルと,人類学者レビ・ストロースである。デュメジルは,〈自然神話学派〉とはまったく異なる構造分析的な比較の方法と,すぐれた語学力を駆使して,インド・ヨーロッパ語系の諸民族の神話は元来,彼が〈3機能体系〉と名づけた独特の世界観を反映し,共通の構造と内容を持っていたことを明らかにした。…
… 一方,J.P.サルトルやM.メルロー・ポンティをはじめ現象学とマルクス主義を結合する実存主義の展開に続いて,人間の社会的活動を深層の意味構造から理解しようとする探求が生まれると,精神分析とフロイト主義は,言語学や人類学などと連動しつつ,無意識的な文化の構造を探り,人間認識の基本視座を革新する試みの思想的源泉の一つとなった。C.レビ・ストロース,M.フーコーらがそのような試みの代表者であるが,その後も思想のあらゆる分野でフロイトの新しい理解が新しい探求を触発しており,精神分析学者F.ガタリと共同する哲学者G.ドゥルーズの社会哲学的探求からJ.クリステバの記号論的探求やR.ジラールの象徴論的探求などにいたるまで,フロイトと精神分析の影響はいっそう深くひろがっている。心理学精神医学【荒川 幾男】。…
…この観点からするとき,近代科学とまたそれに密接に結びついた近代合理主義の文明にみられる抽象の自己目的化と抽象のひとり歩きの傾向への警戒の声が一方で聞かれるようになることはあやしむに足りない。啓蒙主義の抽象的な合理性,ときに人間や個々の文化の個性を捨象しひとしなみに量的なものに還元する合理性に対して,個性尊重の立場から批判の声をあげたロマン主義の運動は,こうした動きの早い一例であるし,いわゆる未開人の〈野生の思考〉にみられる精緻な分類思考に,抽象と具体を緊密にかかわらせる〈具体的なものの科学〉を見とどける現代のレビ・ストロースの目もまた,合理主義文明のもたらした生活の歪みへの批判をおのずから秘めているといえるであろう。知性の働きにおいて〈理想化〉や抽象の果たす重大な役割に繰り返し注意を向けその方法的洗練に努力を傾けたフッサールが,一方で,近代科学による生活世界の基盤の忘却を批判し,また,ベルグソンが,悪しき抽象を排した直観を哲学の究極の方法としたことも想起されてよい。…
…そこで研究の主眼は一般理論から特定社会のトーテミズムの特殊な個別的分析へと移り,トーテミズムという用語は,社会集団の統制のために神話や儀礼を通じて象徴的に設定された人間と自然との関係の体系という,漠然とした現象を慣例的に指示するものとしてのみ用いられるようになった。そしてさらに,60年代にレビ・ストロースは,トーテミズムは研究者のつくりあげた幻想であり,問題はトーテミズムとは何かではなく,この概念を捨てることが重要であるとした。すなわちトーテミズムは,自然と文化という二つの系の対応によってそれぞれの系の差異を認識可能なものとして構造化するという,より一般的な問題の中に解消される。…
…そして特定の社会においてどのように分類が行われているかを見いだそうとすることに重点をおくが,その反面,対象社会がそれらのカテゴリーを実際にどのように使用しているか,またその民俗分類は生活のどんな場面に現れるかといったことについての研究がおろそかになりがちであったために,無味乾燥で断片的な民族誌におちいってしまうという批判を受けることにもなった。 文化を観念体系として見る第2のものは,フランスのレビ・ストロースである。彼の唱える構造主義はイギリス,アメリカの人類学界にも大きな影響を与えている。…
…以上二つの立場は認識人類学cognitive anthropologyの名で総称される。 認識のプロセスを扱ういま一つの立場は,フランスのC.レビ・ストロースに代表される構造主義structuralismeである。レビ・ストロースのいう構造は経験的実在に関係しているのでなく,経験的実在に基づいて作られたモデルである。…
…そしてその機能を類型化することによって,民話の体系化を試みたのである。フランスの人類学者C.レビ・ストロースは,プロップの方法から多くを学びながら,神話の分析を試みて,みごとな成果をあげた。この2人に共通しているのは,多種多様なかたちで存在する民話や神話を分析することによって,それらの深層にひそんでいる共通の構造を取り出そうとする姿勢である。…
…フランスの人類学者レビ・ストロースの著作。1962年に公刊されると,たちまち多くの論議を呼び,現代西欧思想史の画期となった〈構造主義〉の時代の幕明けとなった。…
※「レビストロース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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