改訂新版 世界大百科事典 「食道発声」の意味・わかりやすい解説
食道発声 (しょくどうはっせい)
esophageal voice
喉頭摘出手術を受けた無喉頭者が声を出す一方法。喉頭癌などで,やむをえず喉頭を摘出する手術を受けた場合,当然のことながら,本来の発声法である呼気を利用して声帯を振動させる方法が失われることとなる。この場合,声を取り戻す方法として,人工喉頭を利用する方法と食道を利用して声を出すやり方がある。後者を食道発声といい,空気をいったん食道に飲み込み,この空気を腹圧などで押し出すようにして,食道上部の粘膜を押し開く際に,この部分を振動させて発声するものである。はじめは,げっぷを意のままに出るように練習を行い,徐々にこの方法を習得するが,日本各地に無喉頭者の集まりがあるので,それらのグループに加わり,集団で励まし合いながら行うことも肝要である。どうしてもうまく食道発声ができない場合には,器具を使う人工喉頭の方法に代えることとなる。最近では,喉頭摘出手術の際,声帯となるべき部位を再建する術式も考案されているが,必ずしも全例が対象とはならないのが現状である。
→人工喉頭
執筆者:吉岡 博英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報