喉頭に発生する癌で,全悪性腫瘍の約2%を占め,耳鼻咽喉科領域では最も多い癌である。男性に圧倒的に多く(男女比は10対1といわれる),40歳代から60歳代に多い。喫煙や飲酒との関係,また音声の酷使や慢性炎症などが発生に関与するといわれているが,真の原因はわからない。
発生部位により声門癌glottic cancer,声門上癌supraglottic c.,声門下癌subglottic c.に分けられる。これらは,以下に述べるように,症状に違いがあるばかりでなく,リンパ節転移の発生の早さなどにも関係があり,治療法決定のうえで欠くべからざる所見であるとともに予後判定にも重要な根拠を与える。一般に声門癌(声帯癌ともいう)での初発症状は嗄声(させい)である。長期にわたり治りにくいしわがれ声が頑固に続くときは癌を疑うことがたいせつである。腫瘍の増大につれ,嗄声は強くなり,声門が狭くなったり,声帯の動きが悪くなると喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難も起こってくる。声門上癌では,咽喉頭部の違和感,不快な刺痛感や嚥下痛を主訴とすることが多い。声門下癌では,初期には無症状であるが,咳や痰,とくに血液を混じた痰として発症することがある。いずれにせよ,主訴や症状をよく見きわめて,早期に癌を疑うことは早期発見をするためにはたいせつなことであるが,一方,発生部位によっては,晩期まで自覚症状のないものもあることに注意しなければならない。
専門医による喉頭鏡検査による視診や,単純X線写真や断層撮影,あるいは喉頭造影などが併用して行われるが,最終的には試験切片の病理組織学的検査によらなければならない。
大別して放射線療法と手術的治療とに分けられる。近年,制癌剤による薬物療法も行われるが,これらは補助療法として併用されることが多い。腫瘍の進展が強く,気道閉塞により呼吸困難に陥っているものでは,まず気管切開を行ってから根本的な治療にとりかかる必要がある。まず放射線療法についてであるが,声門癌の初期では放射線のみで完治しうることもある。またそれ以上に進展した場合でも,装置の進歩などにより治癒率は向上し,放射線治療の適応範囲は著しく広がっている。また手術と併用して,手術前に照射したりあるいは後照射として行う方法も一般化している。また全線量照射のあとしばらく様子をみて,手術を追加するという手法がとられることもあるが,どのような組合せが良いかは,施設や医師の考え方により違い,必ずしも統一された方式が確立されているわけではない。手術的治療として,まず喉頭全摘出術があるが,これは声帯を含めて喉頭全体を摘出するため,声が失われることとなる。この場合は,いずれ食道発声や人工喉頭で発声機能を代用させることになる。しかし腫瘍の範囲が限局している場合は,一側の声帯を残したり,声帯より上の部分のみ切除する方法も行われる。最近では,腫瘍の進展がきわめて限られたものでは,内視鏡下のレーザー手術で腫瘍摘出が可能な場合もあり,放射線治療との併用で良い成績をみることもある。いずれの方法にせよ,喉頭の機能がなるべく保存されるような治療を行うが,進展が十分に考えられるときは全摘出術の即時適応も依然として残っていると考えておくことが肝要である。
執筆者:吉岡 博英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
喉頭の悪性腫瘍(しゅよう)で、喉頭肉腫の95倍も発生頻度が高く、全身の癌の約2%を占める。50~70歳代にもっとも多く、性別では男性に多くみられ、女性の約9倍である。真の原因は不明であるが、喫煙者に圧倒的に多く、声の酷使やX線などの照射、刺激性ガス吸入などが誘因としてよく知られている。喉頭癌は、声帯癌、声帯で左右を囲まれた声門より上部にある声門上癌(仮声帯癌、喉頭室癌、前庭部癌、喉頭入口部癌)、声門より下部にある声門下癌に分類されている。これらのうち声帯癌がもっとも多く、ついで声門上癌、声門下癌となる。しかし声帯癌も進行すると、声門上部や下部、さらに喉頭入口部の外側へも進展する。声帯癌はきわめて初期から声がかれてくるので早期に発見されることが多く、しかも頸部(けいぶ)リンパ節をはじめとした転移も他の部位の癌よりも少ないので、予後はきわめてよく治癒率も90%以上である。声帯癌以外の喉頭癌は逆に自覚症状がきわめて少ないので、相当進行してからでないと発見されないことが多く、予後も声帯癌よりは悪いが、身体他部の癌と比べると喉頭癌は治療しやすく、予後もよいことが多い。
初期の症状としては、声帯癌では嗄声(させい)(しわがれ声)であり、その他の癌では異物感である。2週間以上もこのような症状があるときには、耳鼻咽喉(いんこう)科医による検査を受けるのがよい。喉頭癌が進展してくると、血痰(けったん)、疼痛(とうつう)、喘鳴(ぜんめい)や呼吸障害、嚥下(えんげ)障害などをおこすが、相当進行してからでないとみられない症状である。転移は頸部リンパ節がもっとも多く、ついで気管と肺に多い。末期になると、肝臓をはじめ全身に転移をおこしてくる。
治療は、早期のものは放射線療法が声の機能を障害せずに治療できる点で優れており、しかも完治させることができる。進展したものでは手術的治療が適応となる。癌の進展する部位によっては、喉頭を部分的に切除することによって声をある程度まで保存できることもある。喉頭を全部摘出した場合は、声帯による発声ができず食道音声や人工喉頭による発声を行わなければならないが、訓練をすれば社会生活にほとんど支障ない程度にまで回復させることができるようになる。抗癌剤も最近は相当進歩してきているが、喉頭癌についてはまだ補助的治療の域を出ないのが現状である。
[河村正三]
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