高草郡（読み）たかくさぐん

日本歴史地名大系

高草郡
たかくさぐん

• 鳥取県：因幡国
• 高草郡

因幡国北部西寄りにあり、東は邑美（おうみ）郡、西は気多（けた）郡、南は八上（やかみ）郡に接し、北は日本海に臨む。現在の鳥取市の千代川西岸地域にあたる。海岸沿いに鳥取砂丘西部の湖山（こやま）砂丘が広がり、その南にラグーン湖山池がある。郡域の大部分は山地で野坂（のさか）川・有富（ありどめ）川・砂見（すなみ）川などが北西流して千代川に注ぎ、平野は千代川西岸とその支流下流域と湖山池東側に広がる。湖山池周辺の山麓・丘陵地には古墳が集中、条里地割は平野部一帯に設けられたことが史料上からも確認される。

〔古代〕

「和名抄」東急本国郡部では郡名に「多加久佐」の訓を付す。延暦三年（七八四）に成立したとされる伊福部臣古志（伊福部家文書）には伊福部氏第二六代都牟自臣の項で、孝徳天皇二年（六四六）に「立水依評任督」、斉明天皇四年（六五八）に「始壊水依評、作高草郡」と記される。水依（みより）評がそのまま高草郡となったか、一部を割いて高草郡を建てたとする説もあるが、むしろまず水依評が設置されてそれが邑美郡・法美（ほうみ）郡に分れ、次いで別に高草郡が設置されたと考えられ、大化前代の氏姓国造勢力の中心拠点であった高草郡の地を避けて最初に水依評が設けられたと推定される（新修鳥取市史）。この説によれば当郡の設置は斉明天皇四年となる。「和名抄」東急本は神戸（かんべ）・委文（しとり）（高山寺本では倭文）・味野（あじの）・古海（ふるみ）・能美（のみ）・布勢（ふせ）・野坂・刑部（おさかべ）の八郷を載せる。郡衙は古海郷内にあったと推定され、同郷比定地には菖蒲（しようぶ）廃寺があり、同寺は因幡堂薬師縁起（東京国立博物館蔵）にみえる薬師寺のこととされる。野坂郷比定地には国隆（こくりゆう）寺があった。「延喜式」神名帳には「伊和（イワノ）神社」「倭文（シトリ）神社」「天穂日（アマホヒノ）命神社」「天日名鳥（アマヒナトリノ）命神社」「阿太賀都健御熊（ミクマ）命神社」「大和佐美（オホワサミノ）命神社」「大野見（オホノミノ）宿禰命神社」の七座を記し、ほかに貞観三年（八六一）以降神階叙位を受けた賀露（かろ）神社がある。「時範記」によれば、承徳三年（一〇九九）二月二六日郡内の三嶋（みしま）社・賀呂（かろ）（賀露）社の二社が国司平時範の奉幣を受けている。古代の官道は北部をほぼ東西に通っていたと推定され、「延喜式」兵部省諸国駅伝馬条の山陰道「敷見（しくみ）」駅（駅馬八疋）を湖山池南岸付近に比定する説がある。高草郡の伝馬は五疋と定められていた。

天平勝宝八年（七五六）に奈良東大寺の野占使らが因幡国に入り、国衙官人立会いのもとに高草郡内に東大寺領高庭（たかば）庄が点定された。同庄は湖山池東岸の布勢郷を中心とする条里施行地域内にあり、北一条から四条、北七条・北八条に散在する七三町八反七五歩からなっていた。

出典　平凡社「日本歴史地名大系」