風により移動した砂が堆積(たいせき)して形成された丘や堤状の地形。起伏がなく平坦(へいたん)な砂の堆積地形は砂床sand sheetとよばれている。
[赤木祥彦]
砂丘は移動の有無によって移動砂丘と固定砂丘に分類され、形成場所によって砂漠砂丘、海岸砂丘、河畔砂丘、湖畔砂丘に分類される。移動砂丘は砂が移動しつつある現成の砂丘である。固定砂丘は植生の増加により砂の移動が止まった砂丘であり、その最大の原因は気候の湿潤化である。気温との関係で異なるが、一般的には年降水量が150ミリメートルを超えると増加した植生が砂の移動を妨げるため、砂丘は固定される。そのため、植生により固定された砂丘は気候の湿潤化を示す有力な証拠となり、化石砂丘ともよばれている。砂丘の固定化は植林によってもみられるが、これは砂丘の移動による集落や耕地の被害を防ぐために行われている。砂漠砂丘は他の場所の砂丘と比較するとその規模は非常に大きく、形態も複雑である。砂丘と砂床を加えた範囲が砂砂漠である。砂砂漠が世界の砂漠全体に占める割合は約20%であるが、各砂漠によって大きな相違がある。安定陸塊の砂漠ではその割合が大きく、サハラ砂漠では約20%、アラビア砂漠では約30%、オーストラリア砂漠では約40%であるが、オーストラリア砂漠の砂砂漠は氷河時代に形成され、降水量が多くなった現在は固定砂丘となっている。造山帯の砂漠では砂砂漠の割合が非常に小さく、南北両アメリカ大陸の砂漠では1%以下である。
湿潤地帯では海岸と河畔に発達している。海岸砂丘は高温多湿で植生の生育のよい熱帯や、降雪の多い高緯度では形成されにくく、中緯度の風の強い所に形成されやすい。そのため、アメリカ合衆国東海岸やヨーロッパ西岸、日本では日本海沿岸や茨城県の鹿島灘(かしまなだ)、鹿児島県の吹上浜などに形成されている。河畔砂丘は砂が多量に運ばれ、一定方向の風が強い所で形成されやすく、アメリカ合衆国のミズーリ川やミシシッピ川、日本の利根(とね)川河畔に代表的なものがみられる。湖畔砂丘としては、アメリカの五大湖沿岸のものが典型的である。
[赤木祥彦]
形態は、砂の堆積する基盤の性状、風力、風向、供給される砂の量などにより異なるが、基本的にはバルハン砂丘、横列砂丘、線状砂丘、塊状砂丘、障害物に関係する砂丘に分類される。バルハン砂丘は三日月形の平面形をしており、両端が風下側へ延びている。縦断面形は風上側は凸形で緩勾配(こうばい)、風下側は凹形で急勾配である。砂の供給が少なく、一定方向の強い風が吹く所に形成されるが、砂の供給が多くなると隣接する角の部分がつながり、横列砂丘へと移行する。横列砂丘は風の方向に直交し、縦断面形はバルハン砂丘と同じである。線状砂丘は風の方向とほぼ平行な砂丘で、セイフ砂丘ともよばれている。砂の供給が少なく、風の方向が90度以内で2方向から吹く所で形成される。塊状砂丘は風向が一定しない所で形成されピラミッド形、星形などがみられる。障害物に関係する砂丘としては、灌木(かんぼく)や崖(がけ)の風下側に形成される砂影や鞍部(あんぶ)の風上・風下に形成される登攀(とうはん)砂丘などがある。
[赤木祥彦]
砂丘の規模と移動速度は供給される砂の量、風向と風速によって異なるが、これらの要因は地域によっても異なる。
(1)バルハン砂丘 風上側の円形の部分から両端の角の先までの縦の長さは15~110メートル、両側の角と角の間の幅は20~250メートル程度のものが多いが、400メートルを越すものもある。高さは横幅の10分の1程度である。移動速度は1年に5~30メートル程度であるが、モーリタニアでは63メートルが記録されている。
(2)横列砂丘 砂丘の高さ3~35メートル、幅は300メートル~2キロメートル、砂丘と砂丘の間隔は500メートル~3キロメートルであるが、高さが250メートル、砂丘の間隔が5キロメートルを越える例も報告されている。移動速度はバルハン砂丘と比較すると、砂の量が多くなるだけ遅く、1年に0.3~5メートル程度である。
(3)線状砂丘 地域によりその規模に大きな違いがみられる。一般的には高さ5~30メートル、幅5~20メートル、長さ数百メートル~数十キロメートルであるが、オーストラリア砂漠には高さ20~30メートル、幅300~500メートル、長さ100キロメートルを越す線状砂丘が多数分布している。線状砂丘の移動についてはデータが少ないが、1年に2~15メートルの記録がある。なおオーストラリア砂漠の砂丘は固定砂丘である。
(4)塊状砂丘は最大規模の砂丘であり、高さが300~400メートルに達するものが各地の砂漠で報告されている。
(5)砂床 面積は数平方キロメートルの砂床から、エジプト、スーダン、リビアにかけて分布している10万平方キロメートルに達するセリマ砂床まで多様である。砂の厚さはせいぜい数メートルまで、セリマ砂床では1メートル以下である。砂床はほとんど移動しない。砂の供給量が多くなると砂丘と砂床の複合体が形成されるが、この複合体は面積によって二つに区分されている。面積が3万平方キロメートル未満のものは砂丘原dune field、3万平方キロメートル以上のものは砂海sand seaとよばれている。
[赤木祥彦]
砂漠の移動砂丘を固定するのは困難であるが、湿潤地域の砂丘は砂防林を植樹し砂の移動が止められている所が多い。外国ではこの固定砂丘を農地として利用している所は少ないが、日本では砂防林の間が果樹園や耕地として利用されている所が多い。乾燥地帯には、過去のより乾燥した時期に形成された砂丘が、気候の湿潤化とともに固定した砂丘が広く分布している。サヘル地域では、この固定砂丘で古くから農耕・牧畜による生活が続けられてきたが、第二次世界大戦後の人口の急増や経済政策の変化などが急速に過耕作・過放牧をもたらし、砂漠化が進んでいる。中国の内モンゴル自治区では、社会主義政権成立後、モンゴル族の放牧地が急速に耕地化され、ここでも砂漠化が進んでいる。乾燥地帯の固定砂丘の植生は不安定であるから、慎重な土地管理が必要である。
[赤木祥彦]
『日本砂丘学会編『世紀を拓く砂丘研究――砂丘から世界の沙漠へ』(2000・農林統計協会)』
風によって運搬・堆積された砂(風成砂という)からなる高まりをいう。風が強く,砂漠を含む乾燥・半乾燥地域,海岸,河岸,湖岸など,乾燥した砂質の裸地を生じやすい所に形成される。砂丘の規模や形態は,風の強さ,風向の安定性,砂の供給量や粒度,植被の粗密などの条件により変化する。
風は礫(れき),砂,シルトのまじった堆積物から,おもに中~細粒砂(直径0.5~0.125mmの砂)だけをきれいによりわける作用をする。乾燥した中~細粒砂は4~5m/sの風で動き始め,風速がそれより小さくなると堆積する(図1-a)。礫や粗い砂はよほどの強風でないと動かない。シルトは粒子間の凝集力などのために動きにくいが,いったん動くと上空に舞い上がり,ダスト(風塵)として遠方へ運ばれる。したがって,4~5m/sをこえる風が吹き続けると,砂は表面に沿って動き始め(表面匍行surface creep),やがて,跳ね飛んで移動(跳躍saltation)するようになる。この過程で粒径の淘汰(とうた)作用が進み,中~細粒砂にそろってゆく。図1-b,c,d,eにみられるように,実際の風成砂の粒度組成は河川砂など他の環境の堆積物に比べ,著しく淘汰されている。もともと粗粒砂が多く,風が強い場合には,粗粒砂の多い風成砂が生ずることもある。
砂が移動する過程で,砂粒は丸く磨かれ,またその表面に小さく不規則な孔や溝が生じたり,全体にすりガラス状になるなどの表面の特徴を呈することが多く,風成砂を見分けるとき,よい示標となる。
砂丘の形態には,バルハン砂丘barchan dune,横砂丘transverse dune,縦砂丘seif dune,longitudinal dune,パラボラ砂丘parabolic dune,星形砂丘star dune,ネブカ砂丘Nebkha,shadow duneなどがある(図2)。
砂の供給が比較的少ない場合,風上側に緩やかな斜面,風下側に弧状をなす急斜面slip face(その最大安息角は34度)をもつバルハン砂丘が生じる。これは砂漠地域において,風向がほぼ一定であるときの砂丘の基本形態である。風成砂は風上側斜面を平行ラミナをなして動いた後,風下側急斜面を滑り落ち,急斜する前置ラミナforeset laminaeを次々に形成していく。これはバルハン砂丘だけでなく,一般の砂丘が風下側に移動していくメカニズムである。
風速が大であるとき,卓越風向に平行して長く伸びる縦砂丘が形成される。津軽半島,下北半島南部に著しく,長さ数kmに達する。オーストラリアの砂漠地域では縦砂丘が長さ数百kmに及ぶ広大な領域を占めている。
砂の供給量が多い場合,バルハン砂丘などが横に連結するなどして,卓越風向に直交する横砂丘が生じる。
砂丘が植生で覆われている半乾燥地帯や,中緯度の海岸砂丘地帯では,強風,波,山火事,動物などによるじょう乱,人間活動などにより,一部で植被が破壊されると,風食作用が集中的に進んで馬蹄形の凹地が形成され,その風下側にパラボラ砂丘が形成される。
卓越風向が季節的に変化する場合には,星形砂丘など砂丘は複雑な形態を呈する。
砂の移動する領域に灌木などの障害物があると,灌木などが風成砂をトラップ(捕獲)し,その風下側に尾を引く形のネブカ砂丘が生成される。
このほかオーストラリアでは,湖の東岸に弧状に発達する砂丘が多く,ルネットlunettesと呼ばれる。ルネットには湖底が干上がったときに生じる粘土の小塊やセッコウなどの結晶がしばしば大量に含まれる。形態的には弧状の横砂丘であるが,その上にパラボラ砂丘や縦砂丘が複合的に発達することが多い。
日本の海岸砂丘の場合,横砂丘が基本となり,その上にパラボラ砂丘や縦砂丘が発達する場合が多い。それは,これら横砂丘が,海岸線に平行に列をなして発達する砂州を母体として形成されることが多いためである。
最終氷期(約8万~1万年前)には風成砂やダストの活動が活発で,広大な砂丘地帯やレス地帯が出現したことが世界的に知られている。オーストラリアでは2.5万~1.3万年前に大陸の大半が砂丘で覆われた大乾燥期があったとされる。また最終氷期では乾燥期と湿潤期が繰り返され,湿潤期には湖水位が上昇した。
日本では完新世(沖積世)以前(おもに更新世(洪積世))に形成された砂丘は古砂丘と呼ばれ,おもに日本海に面する海岸地帯に分布する。最終氷期の前期と末期に形成されたものが多い。完新世に形成された海岸砂丘は日本の多くの砂浜海岸に分布し,その形成期は2期に分けられている。おもに縄文前期から後期にかけて(6500~3000年前)形成された旧砂丘と,古墳期以後(1800年前以降)に形成された新砂丘がそれで,この間には,千数百年にわたる植生で砂丘が覆われ,クロスナ層と呼ばれる厚さ数十cmの土壌層が生成された時期がはさまる。この土壌層からは多くの縄文~弥生土器片など文化遺物が見いだされ,人間活動の舞台になっていたことがうかがえる。
海岸砂丘は海の浸食から平野を守る天然の堤防である。植物の被覆は砂の移動をおさえ,砂丘地を安定させる。一方,植被の小さな破壊をきっかけとして大きな風食凹地が生じ,風成砂(飛砂)が森林や耕地内に侵入して被害を生起させる例は世界各地で知られている。日本の海岸砂丘地帯では,マツなどの人工的植栽によって,海岸砂防林を成立・定着させる努力が数百年にわたり続けられてきた。今日では多くの海岸で立派な森林が耕地を飛砂から保護し,天然の堤防を維持している。また,海岸砂防事業の進展とともに砂丘地の農業利用も進んでおり,野菜,果樹,花卉(かき)などが栽培されている。
執筆者:遠藤 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…ブローアウトは径数百m以下,深さは1m程度の円ないし楕円形のデフレーションによる凹地で,風食凹地または風食窪と呼ばれる。風による堆積地形としては砂原,砂丘,レスがある。砂原は風紋以外起伏の見られない砂の平原である。…
…また,跳躍によって移動する粒子が地表面に衝突するとき,表面匍行が少ないと除去量よりも堆積量が増し,付加堆積が進む。こうして砂丘やレスloessが形成される。砂丘では山形地形の風下側斜面において落下堆積となだれを繰り返す侵入堆積によって砂丘は前進する。…
…武蔵野台地などの洪積台地,多摩川低地などの沖積低地は〈中地形〉の規模であり,その中の扇状地,三角州などの地形単位は〈小地形〉と考えてよい。さらに例えば三角州を構成する自然堤防,後背湿地,蛇行跡,砂丘などの地形要素は〈微地形〉である。微地形の場合でも,微地形を構成する部分に,例えば砂丘ではこれを構成する斜面にさらに分解して考察する立場がある。…
※「砂丘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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