改訂新版 世界大百科事典 「鯉つかみ」の意味・わかりやすい解説
鯉つかみ (こいつかみ)
歌舞伎狂言。主人公が鯉の精と水中で格闘するさまを主題とする作品の総称。本水を用いた夏狂言の一趣向として歓迎された。三升屋二三治(みますやにそうじ)著《紙屑籠》に〈始て水船にて作り物の鯉をつかひしは,元祖菊五郎より始りて,親松緑(初世松助)つたへて梅幸(3世菊五郎)へゆづる〉と記すように,元来は尾上家の〈家の芸〉として伝えられた。脚本としては,福森久助,2世瀬川如皐(じよこう)作,1813年(文化10)7月中村座初演《短夜仇散書(みじかようきなのちらしがき)》の〈真崎稲荷の場〉で3世菊五郎の大工六三郎が鯉つかみを演じたのが著名。近代では大阪の市川右団次親子が得意芸とした。初世右団次(のちの斎入,1843-1916・天保14-大正5)が1876年11月大阪角座で初演した,勝諺蔵,奈河三津助作の時代物《新舞台清水群参(あらきぶたいきよみずもうで)》は,〈清玄桜姫の世界〉に取材し,滝窓志賀之助の鯉つかみを趣向として取り入れたもの。2世右団次(1881-1936・明治14-昭和11)は,これを《涌昇水鯉滝(わきのぼるみずにこいたき)》(1914年9月東京本郷座初演)として,しばしば演じた。
執筆者:小池 章太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報