改訂新版 世界大百科事典 「龐居士」の意味・わかりやすい解説
龐居士 (ほうこじ)
Páng jū shì
生没年:?-815
中国,唐代の仏教者。名は蘊。衡州(湖南省衡陽)の人。馬祖と石頭に参禅して,印可を得るが,出家せず,晩年は家族と襄陽の鹿門山に住み,禅風を起こす。梁の傅(ふ)大士とともに,東土の維摩とよばれる。禅僧との問答が多く,その偈頌(げじゆ)300首とあわせて,早くより語録としてまとめられた。これは節度使于頔(うてき)の編と伝える。
宋代,禅宗が士大夫の信を得るとともに,水墨や文学のテーマとなり,居士の意味が拡大して,龐居士の伝記が変貌する。すなわち,龐蘊は,あこぎな高利貸であった。借金を返せぬ人々が牛馬に生まれて居士にこきつかわれている。奴隷も同じである。ある日居士は発心して奴隷と牛馬を解放し,巨万の富を海に沈めて,無一物となる。路辺で笊をつくり,糊口の資として,禅を楽しむ。居士はそんな雑劇の主人公となる。龐居士とは,高利貸のこととされるのである。語録や,偈頌もこの意味で解釈される。一休の《狂雲集》は,多分にその影響をうけている。
執筆者:柳田 聖山
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報