Goodpasture症候群

内科学 第10版 の解説

Goodpasture症候群(全身疾患と腎障害)

概念・定義
 抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM抗体が陽性であり,急速進行性腎炎症候群(rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)と肺出血を呈する場合にはGoodpasture症候群,肺出血を認めない場合を抗GBM抗体型腎炎とよぶ【⇨図11-3-4】.抗GBM抗体は4型コラーゲンのα3鎖のNC1ドメインの特定部分に対する抗体であり,4型コラーゲンα3鎖のおもな分布臓器である肺胞基底膜や糸球体基底膜の抗原基露出部位に抗体が結合して炎症を惹起し発症する.
疫学
 欧米の報告では全腎生検の5%弱が抗GBM抗体型糸球体腎炎といわれる.わが国では比較的まれな疾患とされており,RPGN症例の中でGoodpasture症候群は1.5%,抗GBM抗体型腎炎は5%を占めているにすぎない.性差はほぼ同じかやや女性に多い.諸外国では若年と中高齢者の二峰性のピークがあり,若年ではGoodpasture症候群が,中高齢者には抗GBM抗体型腎炎が多いといわれるが,わが国の症例には若年でのピークを認めず,発症時平均年齢は50歳以降と比較的高齢発症という特徴がある(Hirayamaら,2011).
原因・病因
1)Goodpasture抗原:
GBMの主成分であるⅣ型コラーゲンは6種類のα鎖(α1(Ⅳ)~α6(Ⅳ))のうちの3本が,らせん状に巻き合わさって形成している.α鎖のC末端の非コラーゲンドメインは,non-collagenous 1(NC1ドメイン)とよばれる.三重らせん構造を形成するⅣ型コラーゲンのα鎖の組み合わせは限定されており,α1α1α2,α3α4α5,α5α5α6の3種類が知られている.これらの組織分布は臓器,組織ごとに異なっており,α3α4α5分子はGBMの主成分(上皮細胞側),尿細管基底膜の一部に分布し,肺では肺胞基底膜に局在している.また,α1α1α2分子はGBMの内皮細胞側に薄く分布し,GBM以外にもメサンギウム基質,Bowman囊基底膜,尿細管基底膜,毛細血管の基底膜に局在し,α5α5α6分子はBowman囊基底膜と尿細管基底膜の一部に分布している.Goodpasture症候群の患者はα3鎖NC1ドメイン単量体のEA(N末端側17-31位のアミノ酸残基),EB領域(C末端側127-141位のアミノ酸残基)とα5鎖NC1ドメイン単量体EA領域を認識する複数種の抗GBM抗体を有し,また一部の症例はα4鎖NC1ドメイン単量体を認識する抗GBM抗体をもち,これらのエピトープは通常の六量体のNC1ドメインとは反応しない(Pedchenkoら,2010).このような患者に,感染症(インフルエンザなど),吸入性毒性物質(有機溶媒,四塩化炭素など),喫煙などにより肺の基底膜の障害が生じると,単量体で表出されるエピトープが露出し抗原提示細胞に曝露され,抗体産生が起こるものと推測されている.
2)糸球体障害発症機序:
本症での免疫応答は免疫反応Ⅱ型,すなわち細胞膜直接障害型の代表的疾患として分類されていたが,基底膜は細胞外マトリックス蛋白であり細胞膜とは異なる分子構成であること,IgG受容体であるFcγ受容体の病態への関与から,自己抗体以外の因子が病態に関与する可能性が明らかとなっている.さらにTリンパ球介在型の免疫反応による組織障害機序の関与も推測されている.具体的には,抗GBM抗体の基底膜への結合を足掛かりに,好中球,リンパ球,単球・マクロファージなどの炎症細胞が組織局所に浸潤し,さらにそれらが産生するサイトカイン,活性酸素,蛋白融解酵素や補体,凝固系なども関与し,毛細血管壁の障害,基底膜の断裂が生じるものと考えられている.糸球体係蹄壁の断裂部より血液中のフィブリンがBowman腔へ漏出するとともに,炎症細胞がBowman腔へ浸潤する.浸潤した炎症細胞が種々のメディエータを産生することにより,Bowman囊上皮細胞の増殖が引き起こされ,細胞性半月体が形成される.
診断・鑑別診断
 RPGNの経過で血清学的検査に抗GBM抗体が検出され,組織学的にIgGの係蹄壁への線状沈着を伴う半月体形成性壊死性糸球体腎炎を抗GBM抗体型腎炎とし,さらにこれに肺出血を伴う古典的3主徴(肺出血,抗GBM抗体陽性,糸球体腎炎)を呈する場合をGoodpasture症候群とする.
 肺出血とRPGNを同時に呈する疾患(肺腎症候群(pulmonary renal syndromePRS))の鑑別として,顕微鏡的多発血管炎,granulomatosis with polyangitis(Wegener肉芽腫),Churg-Strauss症候群(アレルギー性肉芽腫性血管炎),全身性エリテマトーデス,その他の血管炎症候群(Henoch-Schönlein紫斑病など)があげられる.
治療・予後
治療は血漿交換療法と免疫抑制療法(ステロイドパルス療法+免疫抑制薬)の併用療法を標準的治療とする.二重膜濾過血漿交換や免疫吸着療法が選択される場合がある.あわせて経口副腎皮質ステロイドを投与し,経過をみながら投与量を漸減する.重度の症例に対しては,ステロイドパルス療法を数クール施行する. わが国では,1999年に抗GBM抗体検査が保険収載され,さらに2002年RPGN診療指針が発行されたことにより,RPGN全体の生命予後,腎予後ともに改善がみられている一方,抗GBM抗体型RPGNでは,治療開始時平均血清クレアチニンは低下傾向にあるにもかかわらず,腎予後はいまだきわめて不良である(Koyamaら,2009).[山縣邦弘]
■文献
Hirayama K, Yamagata K: Anti-glomerular basement membrane disease. In: An Update on Glomerulopathies―Clinical and Treatment Aspects (Prabhakar SS ed), pp252-276, InTech, New York, 2011.
Koyama A, Yamagata K, et al: A nationwide survey of rapidly progressive glomerulonephritis in Japan: etiology, prognosis and treatment diversity. Clin Exp Nephrol, 13: 633-650, 2009.
Pedchenko V, Bondar O, et al: Molecular architecture of the Goodpasture autoantigen in anti-GBM nephritis. N Engl J Med, 363: 343-354, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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