日本大百科全書(ニッポニカ) 「TNP」の意味・わかりやすい解説
TNP
てーえぬぺー
フランスの「国立民衆劇場」Théâtre National Populaireの略称。ロマン・ロランの『民衆演劇論』に触発された俳優フィルマン・ジェミエが、議会の協賛を得て1920年に創立。最盛期は、優れた俳優・演出家のジャン・ビラールが芸術監督となる1951年以降である。ビラールは名優ジェラール・フィリップなどスターを活用し、パリのシャイヨー宮大劇場を本拠として2000人を超える大観衆を相手に、古典的名作を簡素な装置で人物像を際だたせ、質の高い民衆劇を次々に送り出した。一方、1951年の『肝(きも)っ玉おっ母(かあ)とその子どもたち』のフランス初演以来、ブレヒト劇を俳優ジョルジュ・ウィルソンGeorges Wilson(1921―2010)とともに上演。1963年以降はウィルソンがビラール路線を受け継いだ。TNPはジャン・ルイ・バローのテアトル・ド・フランスとともに第二次世界大戦後のフランス新演劇二大支柱の一つであったが、1968年の五月革命を契機に衰退。1972年、ブレヒト的な前衛演出家ロジェ・プランションが芸術監督となるに及び、彼の活動拠点リヨン郊外のビルルバンヌ市立劇場にパリからTNPを移した。プランションの率いる新TNPは、モリエール喜劇の現代的上演などに優れ、さらに当時27歳の若手の革新的演出家パトリス・シェローを共同演出家に招いた(1971~1981)。ついで1986年には、1970年代以降に頭角を現したジョルジュ・ラボーダンGeorges Lavaudant(1947― )を招き(1995年まで)、古典と現代作品によって社会性のある優れた劇を上演し続けている。
[石澤秀二]