内科学 第10版 の解説
Tolosa-Hunt症候群(急性散在性脳脊髄炎)
概念
海綿静脈洞内の非特異的肉芽腫性炎症による有痛性眼筋麻痺である.ステロイドによく反応するが再発も多い.
原因・疫学
リンパ球,形質細胞,巨細胞による特発性の炎症性肉芽腫により生じる,動眼神経,滑車神経,外転神経,三叉神経第一枝の障害である.ときに眼動脈周囲の交感神経,三叉神経第二枝,視神経にもおよぶことがある.自然寛解,再発を繰り返す.発症は20~50歳に多く性差はない.
臨床症状
眼周囲および眼の奥が抉られるような持続性の激しい痛みで始まり,数日から2週間で動眼・滑車・外転神経麻痺による複視が生じる.ときにHorner徴候がみられる.多くは片側性である.
検査成績・診断・鑑別診断
本症に特異的な診断マーカーはない.造影MRIで海綿静脈洞ないし眼窩先端部にかけて,造影効果を有する軟部組織の腫瘤様変化をみる.海綿静脈洞を貫く内頸動脈断面の不整や狭窄がみられることがある.血液,髄液では軽度の炎症性変化を示すことがある.ステロイドで72時間以内に痛みが改善され,その他の原因が除外されることが必要である.MRI所見や副腎皮質ステロイドの効果は,その他の原因による有痛性眼筋麻痺でも起こり得る.海綿静脈洞内の脳腫瘍,リンパ腫,動脈瘤,頸動脈海綿静脈洞瘻,頸動脈解離,海綿静脈洞血栓,真菌症,梅毒などの感染,血管炎,サルコイドーシス,多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症),眼筋麻痺性片頭痛,側頭動脈炎などの鑑別が必要である.
治療・予後
副腎皮質ステロイドで痛みは72時間以内に劇的によくなる.脳神経障害は2~8週間続き,MRI画像上の改善はさらに遅れることがある.副腎皮質ステロイドを漸減投与するが,約半数で再発がみられる.再発,難治例には免疫抑制薬や放射線療法が有効なこともあるが,海綿静脈洞内の悪性腫瘍や感染の可能性について注意深い観察が継続的に必要である.[犬塚 貴]
■文献
Gladstone JP:An approach to the patient with painful ophthalmoplegia, with a focus on Tolosa-Hunt syndrome. Curr Pain Headache Rep, 11: 317-325, 2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報