お染久松物(読み)おそめひさまつもの

改訂新版 世界大百科事典 「お染久松物」の意味・わかりやすい解説

お染久松物 (おそめひさまつもの)

人形浄瑠璃歌舞伎狂言の一系統。1710年(宝永7)1月6日に大坂で起こった質店油屋の娘そめと丁稚久松が主家の油細工所で情死した事件(《鸚鵡籠中記(おうむろうちゆうき)》)を題材にした作品群。商家の娘と使用人とのあいだに生じた身分違いの恋の悲劇として,〈お夏清十郎物〉とともに広く人々に親しまれた。また,若い二人をめぐって展開される肉親たちのさまざまな言動にも,いかにも世話物らしい特色がうかがわれるものとなっている。最初の劇化は同月大坂荻野八重桐座の歌舞伎《心中鬼門角(しんじゆうきもんかど)》であるが,次いで歌祭文を通じて一般に流布され,やがて紀海音の浄瑠璃《お染久松袂の白しぼり》(同年4月以前,大坂豊竹座)に至ってその定型が確立した。その後,人形浄瑠璃では《染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)》や《新版歌祭文》,歌舞伎では《お染久松心中》《お染久松色読販(うきなのよみうり)》や《是評判(これはひようばん)浮名読売》等の諸作が繰り返し上演されている。その他,清元の所作事には《道行浮塒鷗(みちゆきうきねのともどり)》(《お染》)がある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android