調書(ル・クレジオの小説)(読み)ちょうしょ(英語表記)Le Procès-verbal

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

調書(ル・クレジオの小説)
ちょうしょ
Le Procès-verbal

フランスの小説家ル・クレジオの処女作長編小説。1963年刊。同年、ルノード賞を受け、著者を一挙に有名にした。「軍隊から脱走したのか、それとも精神科病院からなのか」よくわかっていない青年アダム・ポロが、激しい太陽のまなざしにさらされたニースの街と海岸を放浪し、動物園のライオン空き家ネズミとの合体の試みを通じて、万物が「お互いのうえに流れ出す」、「物質的諧和(かいわ)」の恍惚(こうこつ)状態、つまり人間的には狂気に至る過程を、物質の現前感あふれる文体で跡づける。この作品には、後の諸作の主導的テーマの数々がすでに明らかである。たとえば、一貫して彼の世界の中心である、太陽の圧倒的な現前がそれである。今日に至るまで著者の傑作の一つであるにとどまらず、第二次世界大戦後のフランス文学の代表作の一つに数えられる。

豊崎光一

『豊崎光一訳『調書』(1970・新潮社)』

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