海洋に面する陸地のうち,波浪や潮汐などの影響を直接受ける幅の狭い帯状の地域。陸地と海洋の境界領域として独特の地理的・生態的環境をなす。
陸地と海面とが交わる線を海岸線あるいは汀線というが,毎日の潮汐の上下(干満)につれてその位置は時間的に変化し,前進・後退する。平均的な高潮位と低潮位に対応する汀線を,それぞれ高潮(汀)線,低潮(汀)線といい,両者によって挟まれる地帯を潮間帯という。高潮線より内陸側も波浪,とくに暴風時の波浪によって影響を受けるので,低潮線と波浪の作用の及ぶ陸の限界の間を海浜sea shoreまたは単に浜shoreと呼ぶ。海浜は前浜(低潮線と高潮線の間)と後浜(高潮線より陸側)に区分され,後浜の陸側の限界を広義の海岸線shore lineまたは沿岸線coastlineと呼ぶ。海岸は,海岸線(広義)より海側の陸地(海浜)を限定して指す場合と,海浜とその背後の海食崖,砂丘,潟,湿地など,海の作用が影響する陸地を広く指す場合とがある。汀線より海側は,陸に近づいてくる波浪が砕ける地帯(砕波帯)を境界にして,汀線から砕波帯までの外浜(または沿岸帯)と砕波帯より沖合の沖浜とに区分される。
最も基本的な外力(陸地の表面から作用する営力)は波浪である。波浪はおもに風によって生じ,風波の高さや波長は,風速,吹送時間,吹送距離によって異なる。暴風域で生じた波は,〈うねり〉として風域の外へ伝播する。うねりは波高にくらべて波長が大きい。うねりや風波は陸地に近づくと,海底での水粒子の摩擦により減速し,波長は短くなり,波高は高くなり,ついにある水深の所で砕けて,磯波として海岸に打ち寄せる。砕波帯より陸側では,水の動きは乱流状態となり,海浜底質は活発に動き,地形変化が激しい。また波浪は直接海岸に打ち寄せ,波浪の圧力,波浪中の空気圧の急激な変化によって海岸を浸食し,崖地形を形成する。海岸での浸食(海食)は,直接的には波浪の作用が最も大きいが,海食によってできた崖は,その基部を波によって削り取られるために,崖の中・上部が地すべり,崩壊などマス・ムーブメントと呼ばれる重力性物質移動によって崩れ落ち,崖が後退する。したがって,陸上での風化作用の程度によっても波浪の効果に違いを生ずる。波浪に対する海岸の露出の程度,卓越風向と海岸線の方向により,岬や湾での波の屈折や回折も加わって,波浪のあたり方は場所によって異なる。
潮汐は約12時間の振動周期をもち,満潮と干潮の潮位差の大きな湾や出入口の幅の狭い海峡では,激しい潮流を生じ,海底を浸食する。世界で潮差が最も大きい海岸は,カナダ東岸のフンディ湾で最大16mの潮差がある。日本の海岸は潮差1~2mくらいの所が多く,日本海の海岸では約50cm以下で潮差が小さい。また海岸は風の作用も受けやすく,浅海底や河口から供給された海浜砂が風に吹き飛ばされて飛砂となり,海岸砂丘をつくる。気象・気候条件が異なるために,海岸に作用する波浪・潮汐などの働き方に差異を生じてその形態はさまざまである。たとえば,日本列島は弧状列島で,多数の島々からなり,火山活動や地殻変動が活発なために,地形・地質条件が複雑で,湾や岬が多く屈曲に富む海岸線をなす。したがって,国土面積にくらべて海岸線が長く,総延長3万2000kmにも及ぶ。一方,大陸の海岸は相対的に地形・地質条件が単純で,長距離にわたって同一・類似の形態を示す所が多い。また緯度による海岸の形態の差異は顕著で,高緯度地方では氷河の影響を受けた,あるいは受けつつある海岸が多い。低緯度地方では外洋に面する海岸ではサンゴ礁が発達し,泥の供給の多い海岸ではマングローブが広く分布する。サンゴ礁海岸は世界の海岸の基本的な形態の一つであり,赤道を中心として南・北30°より低緯度の熱帯・亜熱帯の浅海底,海岸に広く分布する。その形成は,表面海水温度,塩分濃度,照度条件の三つが重要な生態的環境条件で,最寒月の表面海水温度が18℃以上の暖海域で,造礁サンゴに共生する褐虫藻の光合成のために,きれいな海水と豊富な光が必要である。サンゴ礁はその形態によって次のように分類されている。礁が大陸や島の海岸に隣接しまたは浅い水路を挟んで発達する裾礁,礁が深い水路で海岸から離れている堡礁,礁が環状に並び中央に潟をもつ環礁,中央に潟をもたずに平たんな礁だけからなる卓礁などである。
海岸の形態を表現する日本語として,〈いそ(磯)〉と〈はま(浜)〉という用語がある。学術用語としては,岩石海岸と砂質(または砂浜)海岸という語がそれに対応する。岩石海岸は固結した岩石からなる海岸で,そこにおける地形変化はおもに波浪による構成岩石の除去に基づく浸食過程であり,その過程は一方的・不可逆的で,変化した地形は回復しない。一方,砂質海岸は未固結の砂礫からなる海岸で,そこにおける地形変化は,海岸を構成する砂礫の除去と付加による浸食・堆積過程で,その過程は可逆的で変化した地形も回復・復元しうる。両者の違いは,海岸を構成する物質が,おもに波浪,潮汐,風などの外的営力に対して,まったく異なる応答・反応を示すことに由来する。海岸地形とその変化は,岩石海岸と砂質海岸では本質的な差異があり,以下分けて記述する。
岩石海岸では,海岸を構成する岩石が波の作用によって削られて海食崖が形成される。海岸浸食の進行とともに海食崖は後退し,その海側前面に波食棚や海食台が形成される。海の浸食作用によって直接形成される急斜面・崖を海食崖と呼ぶ。多くの場合,海食崖の上には草・木などの植生に覆われた斜面や台地面などが続き,陸上での風化・浸食作用を受けている。海食崖の基部の潮間帯付近には,波の物理的・化学的浸食作用によって崖にくぼみができる。それらのくぼみのうち,奥行きより幅の大きいものをノッチ(波食窪),幅より奥行きの大きいものを海食洞と呼ぶ。ノッチが成長しながら海食崖が後退すると,ノッチの海側前面には,おもに潮間帯に波食棚と呼ばれる岩盤からなるほぼ平たんな棚状の地形ができる。波食棚は潮間帯に形成されることが多いが,その成因は,波の浸食作用のほかに,海面付近での高度差による風化営力の差に基づくことが指摘され,とくに潮汐の干満の繰返しによる乾湿の交代をどのくらい受けているかによって,風化・浸食の様式と速さが異なるといわれている。また潮間帯の波食棚のほかに,高潮位より高い位置に暴風波によって発達するストーム・ベンチや,高潮線や低潮線付近に発達する高潮線ベンチ,低潮線ベンチなどの類似の地形が存在するので,これらを一括して,単にベンチまたはショア・プラットフォームshore platformと呼ぶことも多い。波食棚の海側末端には比高数mの小崖があり,その沖合には海食台と呼ばれる地形が発達する。海食台は常に海面下にあり,薄い砂礫層で覆われることがあるが,主として岩盤からなり海側に緩く傾く浸食地形で,海食崖の後退とともに波浪によって基盤岩上の砂礫が動かされ,基盤岩を摩耗して低下させつつ平滑な海食台が発達する。波のエネルギーは水深10m以浅でその90%以上が消費されるので,波浪の浸食限界水深は10m前後となる。また水深の増加とともに海食台の低下速度は指数関数的に減少するので,海食台は上に凹形の縦断面形をもつといわれている。岩石海岸における地形の発達は,海食崖の後退が基本で,その後退速度は海岸を構成する岩石の種類や構造の違いを反映した岩石の浸食に対する抵抗性の大小と,そこでの波の浸食力(おもにある大きさ以上の波高をもつ波浪の出現頻度による)の大小とのかねあいによって決まる。最近数十年間の野外研究の結果によれば日本の海食崖の後退速度は,房総半島屛風ヶ浦(泥岩)で0.7~1.5m/年,明石海岸(第四紀層)で1.0~1.5m/年,渥美半島海岸(第四紀層)で0.6m/年などの値が知られている。外国では,黒海沿岸(火成岩)では0.01m/年以下,カリフォルニア海岸(礫岩)では0.2~0.3m/年,イングランド海岸(石灰岩)では0.1~0.4m/年などが知られ,日本の海岸よりかなり遅い。
砂質海岸はその構成物質によって礫浜と砂浜に区分される。礫浜は主として礫から構成され,波によって汀線付近に打上げられた砂礫が堤状に堆積して,浜堤(ひんてい)と呼ばれる砂礫の高まりが汀線に平行して発達する。浜堤は波,潮汐の条件によって変動しやすく,たやすく発生,消失する。現在の汀線より内陸側に過去に形成された浜堤が保存されて,浜堤列を構成し,浜堤と浜堤の間は低湿地になる。たくさんの浜堤列の発達によって,海岸が前進して浜堤平野をつくることがある。房総半島の九十九里平野や北海道の湧払平野などがその代表例である。砂浜は粗粒~細粒の砂から構成され,前浜から後浜にかけてバーム(汀段)と呼ばれる平たんでその表面がほぼ水平な地形が汀線に平行して発達する。その前浜は構成物質が粗粒なほど急傾斜の斜面となる。また砂質海岸の前面海底の沖浜にはバーbarが発達する。バーは海面下にあって海底の未固結な堆積物からなり,汀線方向に細長く延びて上に盛り上がった地形で,低潮時でも海面上には露出しない。バーは海底勾配が1/100~3/100の砂浜海岸で大潮時の潮差が2.5mより小さい海岸の沖合,砕波帯付近に形成される。潮差が大きい海岸では,砕波帯の位置が頻繁に変動するのでバーができにくいのであろう。波高が大きくなるとバーの比高も増大する。数列のバー(多段バー)が分布する所では,岸から沖合へバーの頂部水深が深くなり,バーの配列間隔が広くなる傾向がある。
砂質海岸では,暴浪時に海浜から砂礫が浸食されて沖合の浅海底に運搬され,そこに堆積してバーを形成する。バーは波浪が穏やかになると徐々に岸の方に移動し,ついには汀線近くに付着し,さらに適当な波浪エネルギーが与えられると陸上にのりあげてバームを形成する。バームの高さは波の遡上限界の高さと密接に関係している。海食崖や河口から岸に沿う流れ(沿汀流)によって運搬される砂礫は,岬の先端や海岸の突出部から延びて,水面上に現れた砂礫の細長い高まり(州)をつくる。州の一端が陸地に接しているものを砂嘴(さし)spitと呼び,北海道の野付崎や静岡の三保半島が代表的である。その先端が岸の方向に曲がっていることが多く,また先端が何列かに分かれた分岐砂嘴もある。砂嘴がさらに延びて対岸に接している,あるいは接しそうになっているものを砂州と呼び,砂州の位置によって,湾口砂州,湾央砂州,湾頭砂州などと呼ばれる。宮津湾の天橋立や米子の弓ヶ浜などが湾口砂州の好例である。さらに海岸線にほぼ平行する砂州はバリアbarrier(沿岸州offshore bar)と呼ばれ,その内側に潟湖,入江や水路が分布する。アメリカ合衆国の大西洋岸にはバリアがきわめてよく発達する。そこでは幅1km,高さ100m(多くは砂丘をのせる)の規模で数百kmの長さにわたって延々と延びている。複数の海浜堆積物の高まりと砂丘や低湿地からなり,水路で陸から離れているものをバリア島という。バリアの一部は切れて,潮汐の干満とともに外洋と潟湖の間に流れを生じるので,その切れ目を潮口(潮流口)という。アメリカ東岸のバリアは沖浜から直接にあるいは海岸に沿う砂の流れ(漂砂)によって砂が供給され,多くは数千年前に急速に成長し,現在は浸食過程にあるものもある。潟や湾の内側では波浪が弱いので,泥質の細粒物質が堆積して干潟をつくる。河川が湾や潟に流入する河口付近には三角州が形成され,干潟をなす所も多い。干潟に植生が侵入すると,ほぼ高潮位の水準に潮汐湿地ができ,さらに植生の遷移によって潮汐湿地上に淡水泥炭が前進してきて,新しい海岸平野がひろがる。熱帯地方では塩水にも耐えるマングローブ林が潮間帯の干潟に進出する。熱帯の三角州は広くマングローブ湿地で覆われている。
まず後氷期の海水準変動があげられる。約1万8000~2万年前の最終氷期の極盛期には海面が現在より80~135mも低かったが,約1万5000年前以降の世界的な気候の温暖化に伴い,高緯度地方の大陸氷床や山岳氷河が溶解し海水量がふえたために,世界的に海面が急速に上昇した。多くの海岸では,氷期に低い海面に対応してできた谷地形が海の浸入によって溺れ谷となった。約5000~6000年前に,海面はほぼ現在の水準に到達し安定した。それ以降は,海岸を含む陸地や沿岸海底の地殻変動の性質の違いを反映して,それぞれの地域では,小規模ではあるが海岸が一方的に離水したり,沈水したり,あるいは振動したり安定したりしている。約5000~6000年前以降は,それ以前にくらべると相対的に海面が安定しているために,波浪,潮汐などの外的営力による浸食・堆積に伴う地形変化がはっきりと現れてくる。次に緯度や海洋との位置関係などその場所の位置,気候的要因,波浪に対する海岸の露出の程度,海岸を構成している岩石の浸食に対する抵抗性,河川の河口部や海食崖からの土砂の供給の多少,さらに人間の社会的活動による人工改変の程度などに応じて,海岸地形はさまざまに変化し,地域的に特徴が現れてくる。
日本のように海岸線が長く複雑で,しかも平野部に人口が集中し,港湾,都市,工業地帯などが発達している地域では,海岸および沿岸海域の開発・利用と防災・保全が重要な課題となる。歴史的にみれば,海岸には古くから海陸交通の接点としての港湾,漁業基地としての漁港が存立し,また干拓や埋立てによる農業用地,都市用地の造成が行われ,最近では埋立てによる工業用地の拡大が活発に行われている。日本は地震,台風が頻繁に発生・来襲するため,海岸地域の開発と人口の集中が進むにつれて,波浪,高潮,津波による災害を受けやすくなった。また山岳地域での砂防工事やダム・貯水池の建設,さらには河川下流部での放水路の開削などにより,山地からの土砂の供給量が長期的にみて減少し,河川の河口部での土砂収支が変化して,海岸浸食が激しくなった所も多い。さらに工場や大都市からの汚水の排水,あるいは船舶からの排油のために,沿岸海域の汚染・汚濁が著しくなった。赤潮の発生により沿岸漁業に被害を生じ,重金属による汚染のため,人体への悪影響など沿岸海域の環境悪化は社会的な問題となっている。海岸・沿岸海域の開発と利用が高度化するにつれて,海岸堤防,海岸護岸,突堤,防波堤,防潮堤,離岸堤などの海岸建造物が多くなり,日本の海岸の人工改変は急速に進み,人工海岸(人工的につくられた海岸や人工構築物のある海岸)が多くなり,自然海岸が少なくなりつつある。環境庁の昭和53年度の調査によれば,日本の自然海岸は全体の59%といわれている。自然の干潟,藻場などが減少すると,臨海,沿岸の動植物の生態系が影響を受け,人間も自然に親しむ機会と場所を失うことになる。海岸は陸地と海洋が接する場所として独特の環境をなしているので,自然保護やレクリエーションの立場からも貴重な自然環境としての海岸の保全に努めたい。
→海岸浸食 →海岸保全
執筆者:米倉 伸之
生物にとって重要な海岸の区分は,砂浜と岩礁の別である。砂浜の上部には特異な陸上植物群落がみられる(ハマヒルガオ,コウボウムギ,ハマエンドウなど)。砂浜域には二枚貝やカニ類など大型の埋在性動物in-faunaがすむが,岩礁域と比べて少ない。しかし微小な甲殻類,多毛類,線虫類などの間隙(かんげき)性動物interstitial faunaは砂中に著しく多い。砂浜の沖合には本当の根をもつ海草類の生育しているアマモ(アジモ)場ができることが多い。
これに対し岩礁域には,フジツボ類,ムラサキイガイなどの付着性二枚貝,カサガイ,ヤギ類などの主として表在性動物epi-faunaが生息し,種類もきわめて多い。海藻類が生息すると,そこには葉上性小動物phytal animalがすみ,魚類やエビ・カニ類など大型の遊泳性の動物もすみつく。磯釣りに利用されるのは岩礁海岸である。岩礁域には埋在性動物は少ないが,カモメガイやある種の多毛類,カイメンなどのように,岩に穴をあけて生活するものも少数みられる。陸上部にも砂浜域と同じように特異な植物群落をもつ(スカシユリ,イソギクなど)。岩礁と砂浜を両極端として,中間的な海岸(たとえば転石海岸)も多いが,その生物相は両者の中間的なものとなる。岩礁,砂浜とも,潮の干満によって露出と水没を繰り返す潮間帯という部分が,特異な生物相形成に大きな役割を果たしている。
生物がすむことによって独特な海岸が形成される場合もいくつか知られている。前述のアマモ場やガラモ(ホンダワラ類の海藻)場もその一つであるが,際だったものとしては熱帯・亜熱帯域のマングローブ海岸,サンゴ礁海岸があり,いずれもよく発達したものが日本では沖縄県八重山列島にみられる。そのほか,カキの殻でつくられたカキ礁が,厚岸湾など北の海で知られている。
執筆者:向井 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
海に面している陸地の部分。海水準は潮汐(ちょうせき)の干満とともに変動し、波浪の高低などの変化もあるので、海の波の影響を受ける沿岸の部分は、平均海面の上下の若干で幅をもっている。そこで、最低低潮線から最高高潮線より若干上までの範囲の帯状地を海岸としている。海岸の陸側の範囲は、砂浜海岸の場合、暴風波の到達限界の浜堤(ひんてい)、岩石海岸の場合は海食崖(がい)の上限までくらいである。
砂浜海岸の場合、満潮面よりすこし上の水準に通常の波の到達限界がみられる。ここから干潮面までの部分を海浜あるいは砂浜という。
海浜はやや勾配(こうばい)の大きい前浜(まえはま)と緩やかな勾配の後浜(あとはま)で構成される。干潮面下には、くだけ波によって侵食されたトラフtroughとよばれる凹地や、砂の堆積(たいせき)地形である海底砂州などがみられる。このような地形の分布する水深10メートル以浅の浅海底を外浜(そとはま)とよんでいる。
岩石海岸の場合、海浜に相当する部分は、波食棚の分布する帯状地である。また外浜に相当する地形は海食台である。
[豊島吉則]
海面と陸地との交線が海岸線であるが、潮位変化によって海岸線の位置は変化する。海岸線の変化の範囲は、海岸とよばれる帯状地内に限られる。潮差の大きい地方では、干潮時と満潮時の海岸線は著しく位置が異なる。日本の地形図においては、東京湾の中等潮位を標高0メートルとして、海岸線の位置を決めている。一般に島国は海岸線延長が大きく、日本は世界的にみても海岸線延長の大きい国である。その総延長は、詳細な地形図に基づいて計測した環境庁(現、環境省)の調査によると、1998年(平成10)時点で3万2817キロメートルという値が得られている。そして全海岸線の55.2%が自然海岸、13.6%が半自然海岸、人工海岸が30.4%に及んでいる。国土の面積に比べても海岸線が長く、また国民1人当りの海岸線は0.26メートルで、イギリスの0.08メートルの3倍以上となり、日本は海岸線大国ということができる。このような海岸環境は、日本の産業や文化に大きな貢献をしてきた。
なお、都道府県別の海岸線延長の1位は長崎県、もっとも小さいのは大阪府である。
[豊島吉則]
海岸は地盤運動や海面変化の影響を強く受けて、地形特性がつくりあげられる。
相対的に海面が上昇すると、海が陸地に侵入して入り組んだ沈水海岸線を形成する。逆に海面が下降すると、海底面が現れて平滑な離水海岸線が形成される。そのほか、海水準の相対的変化に無関係な中性海岸、上記3種類の海岸型が組み合わさった合成海岸が、海岸地形の分類の代表的なタイプとしてあげられる。
(1)沈水海岸 地盤の沈降あるいは海面のユースタチック変動eustatic movement(世界的に一様にみられる海面の昇降現象)による上昇が行われると、河谷に沿って海が入り込み、リアス海岸や多島海が形成される。スペイン北西部のリヤ地方、日本の三陸海岸、瀬戸内海などは、この代表的地形である。
(2)離水海岸 地盤の隆起、海面の静的(ユースタチック)な下降によって形成された海岸で、旧海底面が陸化して海岸段丘や幅広い海岸平野が誕生する。アメリカ合衆国東海岸からフロリダ半島を経てメキシコ湾岸に至る海岸平野は、このタイプの代表的海岸である。
(3)中性海岸 海面の相対的変化を受けない海岸で、デルタ海岸、扇状地海岸、火山海岸、断層海岸、サンゴ礁海岸など各種のものがあげられる。デルタ(三角州)海岸は、エジプトのナイル川河口の弧状海岸線やアメリカのミシシッピ川河口の鳥趾(ちょうし)状海岸、扇状地海岸は富山県の黒部川河口の円弧状海岸などが代表。火山海岸は伊豆諸島、断層海岸は福井県の若狭(わかさ)湾東岸、サンゴ礁海岸は琉球(りゅうきゅう)諸島や南太平洋の島々に豊富な実例がある。
(4)合成海岸 隆起、沈降や、海面の上昇、下降を繰り返し経てきている日本列島は、厳密にいえば、すべての海岸が合成海岸であるとさえいわれている。
他方、海岸を構成する物質に注目して、岩石海岸とか砂浜海岸などのタイプに分類することも可能である。
(1)岩石海岸 おもに第三紀層または、より古い堆積岩や火成岩や変成岩などの硬い岩石からなる海岸である。これはさらに(a)屈曲海岸と(b)直線状海岸に分類される。前者にはフィヨルド海岸(ノルウェー海岸が代表)、リアス海岸、エスチュアリー海岸(イギリスのテムズ川河口)などがあり、後者には海食で平滑化された海岸(渥美(あつみ)半島南東岸)や断層海岸などがある。
(2)砂浜海岸 おもに新生代の更新世(洪積世)や完新世(沖積世)に堆積した未凝固の地層からなる海岸である。これはさらに、湾奥部や潮汐湿原の海岸に多い泥質海岸、ポケット浜、三日月浜などを形成する砂質海岸や礫質海岸(れきしつかいがん)、および砂丘が広がる砂丘海岸などに細分される。
気候の影響も海岸の地形に反映する。両極地方では、氷河が海岸に絶壁をつくり、フィヨルドfiordとかストランドフラットstrand-flatとよばれる幅広い平磯(ひらいそ)の地形がみられる。また高緯度地方では、周氷河作用による緩傾斜の海食崖、氷河堆石地形もみられる。熱帯地方の海岸には、サンゴ礁やマングローブの繁茂する特有の景観が発達する。
[豊島吉則]
世界の海岸は、気候によってかなり異なった景観を示す。たとえば、南極やグリーンランドの海岸では、氷河の崖(がけ)が海に接している。また、紅海沿岸やサハラ砂漠に連なるアフリカ西海岸は、植生のない荒涼とした海岸である。そして、南太平洋の熱帯地方の海岸では、うっそうとしたジャングルが海岸にみられ、サンゴ礁の磯が続く。また、波の静かな所では、マングローブの茂みが海岸に沿って続いている。
このように海岸の地形や植生は、気候帯によってかなり異なるが、極地域、寒冷地域、熱帯・亜熱帯地域、温帯地域、砂漠地域に分けて、それぞれの特徴を述べると、次のとおりである。
(1)極地域の海岸 北極や南極付近の海岸は、氷河が海岸に到達し、氷の絶壁が連続する場合も多い。また、海面が氷結し、海岸の砂礫を押し上げて、土手のような一種の「浜堤」地形をつくることもある。氷河が崩れ、大氷塊が海に落ちるときにおこす大波によって、異常に高い水準まで砂礫が打ち上げられる現象(アイスサージ)も極地域海岸特有のものである。また、ツンドラ(永久凍土)の低平な海岸もみられる。泥質海岸では、巨大な氷楔(ひょうせつ)(アイスウェッジ)ができ、氷と風でつくられる楕円(だえん)形の湖が形成されたりする。
(2)寒冷地域の海岸 氷河が融(と)けたあとには、深いU字谷に海が侵入して、フィヨルド(峡湾)地形が形成される。フィヨルドは、氷河の侵食作用が海面下相当な深度まで及ぶため、水深は著しく深い。またU字谷上には懸谷(けんこく)がみられ、滝がかかっていることもある。またフィヨルドの奥にはカール(圏谷)がみられることもある。ノルウェーの海岸、チリの南部海岸、ニュージーランド南島の南西岸などには典型的なフィヨルドが発達する。
氷河の厚さが薄く、氷河の侵食作用の弱い丘陵性山地の地域では、U字谷の勾配が緩やかで、湾の水深もフィヨルドより浅い。このような地形を、スウェーデン南海岸などではフィアルデfjärdとよび、グレート・ブリテン島ではファースfirthとよんでいる。また丘陵や台地に刻まれたらっぱ状の入り江をエスチュアリーestuary(三角江)とよんでいる。イングランド南部やウェールズあるいはアメリカのニュー・イングランド海岸などに、このようなタイプの地形がみられる。これらの海岸の後背地には、氷河が運んできた砂礫が堆積していて、各種の堆石(モレーンmoraine)地形がみられる。アメリカのボストン付近のドラムリン海岸などはその一例である。寒冷地域の山地や丘陵地においては、氷河地形は鋭い稜(りょう)線や谷壁に特徴がある。しかし、その周辺部になると、雪や霜の作用によって、地形がなだらかになり、海食崖もやや緩い勾配となる。
(3)熱帯・亜熱帯地域の海岸 この地域の海岸にはサンゴ虫の生育が盛んで、サンゴ礁地形が発達する。カリブ海や南太平洋にはその事例が多い。火山島が沈降するとき、その裾(すそ)にサンゴ礁が密着して取り巻けば裾礁(きょしょう)となる。さらに沈降して、火山島とサンゴ礁の間に礁湖ができたものは堡礁(ほしょう)とよぶ。火山島が沈降して消失し、サンゴ礁が円形に礁湖を囲むものを環礁とよんでいる。
サンゴ石灰岩の発達する海岸では、海食崖に深い切れ込み(ノッチnotch)ができたり、溶食作用で石灰洞が発達し、海岸や海底に開口し奇観を呈することも多い。海岸の砂浜の下には、石灰分がしみ込んで砂を固めたビーチロックbeach rockがみられることも多い。海岸砂丘は石灰質砂岩の場合が多く、固化していて、その汀線(ていせん)部にもノッチが刻まれることもある。波の静かな泥質の海岸では、マングローブ林が発達し、内陸に上陸することを妨げているので、河川に沿ってのみ通行可能である。アメリカのフロリダ半島西岸にはマングローブ海岸が続き、エバーグレーズの湿地帯を囲んでいる。インドネシアやパプア・ニューギニアなどの島々にもマングローブ海岸が発達する。砂浜の砂は、石灰岩の破片やサンゴの破片あるいは有孔虫の破片が多いため白っぽい色調を帯びている。日本では、琉球諸島にサンゴ礁海岸やマングローブ海岸が発達する。
(4)温帯地域の海岸 極地方、寒冷地、熱帯、亜熱帯地方に特有の地形以外のすべての海岸地形が、温帯地域に発達している。また、温帯地方に特有の海岸地形はないので、ここで述べる地形は他の気候帯にも分布することが多い。
断層運動で地殻に落差を生じると、直線的な断層海岸が形成され、水深も大きい。台湾の東海岸はこの例である。また、火山が直接海と接すると、火山海岸とよばれる。日本列島にはこのような海岸地形の実例が多い。海の侵食作用で形成される海食崖や波食棚、海岸段丘なども普遍的にみられる。一方、侵食した砂礫を運搬、堆積した地形としては、砂嘴(さし)、分岐砂嘴、浜堤列、沿岸州、湾口砂州、湾央砂州、湾奥砂州、潮汐湿原、潟湖(せきこ)などの各種の地形がある。砂の供給の多い所では海岸砂丘も発達する。砂丘の砂は、サンゴ礁海岸に比べ、岩片の比率が大きく、黄灰色ないし白灰色である。
温帯地方の海岸は一般に植生に恵まれ、日本では黒松林、オーストラリアではユーカリ林が広く分布する。海食崖の勾配は、岩石の構造や硬軟にもよるが、一般的には寒冷地よりも急傾斜である。
河川によって刻まれた陸地が沈降すると、深い溺(おぼ)れ谷が形成され、リアス海岸ともよばれている。オーストラリアのシドニーは、このような溺れ谷に沿って発達した美しい大都会である。シドニーに限らず、世界の大都会で良港を有するものは、温帯地域の溺れ谷に立地したものが多い。
(5)砂漠地域の海岸 雨量が極端に少ない砂漠地方では、植生もほとんどみられず、岩石が露出した岩石砂漠、あるいは砂丘のある砂(すな)砂漠、礫や岩片からなる礫(れき)砂漠の地形が、直接海に接して、他の気候地域とは異なった海岸景観を形成している。中近東のペルシア湾、紅海、アデン湾、地中海南岸、アフリカ北西岸、中米のカリフォルニア半島などの海岸は、このような海岸の広がる地域である。
[豊島吉則]
海岸は優れた景観美に恵まれており、日本では国や県の公園に指定されている所も多い。日本には「浦」「江」あるいは「潟」のつく海が数多くあり、また、宮城県の松島や瀬戸内海の宮島、若狭湾の天橋立(あまのはしだて)が日本三景とされてきたのは、古来、日本人が、内海のもつ穏やかなやさしい景観に接することを好んだからである。しかし、とくに第二次世界大戦後、観光が盛んになると北海道の知床(しれとこ)半島や東北地方の三陸海岸のような荒々しい海岸美も評価されるようになった。これらの優れた自然美を有する海岸線のうち、とくに内海型の場所は、近年、干拓や埋立てが進行して自然破壊が進みつつある。したがって、海岸の保全を図るための基礎調査や、優れた景観美を誇る海岸地方の一部の買い取り運動や公園化運動などが必要となってきている。
日本の海岸は、海水浴場、保養地、観光地としての適地が多く、とくに大都市付近には、千葉県浦安市のように大型のレクリエーション地域が形成されている。また、海岸は漁港や商港として利用されるほか、臨海工業地帯として大きく変貌(へんぼう)しつつある。他方、大都市から遠い過疎地の海岸には、原子力発電所が増えつつある。若狭湾はその代表例である。
海岸災害は、日本のように海岸地帯に人口が集中している国では、深刻かつ重要な問題である。なかでも海岸侵食や津波、高潮による沿岸の被害をみると、海岸線延長が大きい日本にとっては今後の課題といえよう。
[豊島吉則]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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