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ル・クレジオ Le Clézio, Jean-Marie Gustave

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

ル・クレジオ
Le Clézio, Jean-Marie Gustave

[生]1940.4.13. ニース
フランスの小説家。ナイジェリアに勤務するイギリス人の医師とフランス人の母のもとに生まれ,ニースで育ち,同地の文科大学で学んだのち,イギリスのブリストル大学に留学。第一作『調書』 Le Procès-verbal (1963) によってルノドー賞を受け,ヌーボー・ロマンの陣営に加わった。ことばによって現実を模索するための唯一の手段として,エクリチュールのもつ意義を強調。短編集『発熱』La Fièvre(1965),『大洪水』Le Déluge(1966),『戦争』La Guerre(1970),『黄金探索者』Le chercheur d'or(1985),など,異常心理,病的状態を描いたものが多い。ほかにエッセー『物質的恍惚』L'Extase matérielle(1967),『悪魔祓い』 Haï(1971)など。2008年ノーベル文学賞受賞。

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百科事典マイペディアの解説

ル・クレジオ

フランスの作家。南フランスのニースに生まれる。処女作調書》(1963年)がゴンクール賞決選投票で敗れ,ルノドー賞を得た。この小説に描かれる原初的な自然への憧憬は,のちの作品においても繰り返し現れることになる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ル・クレジオ
るくれじお
Jean Marie Gustave Le Clzio
(1940― )

フランスの小説家。イギリス人を父、フランス人を母として、南仏ニースに生まれる。イギリス・フランス両国籍をもち、イギリスのブリストル、ロンドン両大学、フランスのニース大学に学ぶ。
 1963年、第一作『調書』が、ゴンクール賞の決選投票に惜敗したあと、ルノード賞を獲得して彼を一挙に有名にした。この作品では青年アダム・ポロが、強烈な南仏の太陽のもとで町を放浪し、いわば狂人の目で見た人間と自然のドラマが語られている。ついで短編集『発熱』(1965)は、歯痛や発熱など、ちょっとした生理的均衡の喪失が人間存在を根源的に揺り動かすさまを力強く描く。第三作の長編『大洪水』(1966)は、一青年が万物の死の予感から、太陽との合体による個的生命の破滅に至る黙示録的世界を、緊張に満ちた文体で喚起する。以後の作品には、エッセイ『物質的恍惚(こうこつ)』(1967)、『調書』の序文が予告していた「遊戯小説」というプログラムのみごとな実現である長編『愛する大地(テラ・アマータ)』(1967)、メキシコや日本への旅行に触発された自己批判の書である長編『逃亡の書』(1969)、作中人物の非人称化が極度に推し進められたSF的長編『戦争』(1970)および『巨人たち』(1973)、さらに、パナマ・インディアンとの生活体験から西欧的価値の超克を夢みるエッセイ『悪魔祓い(あくまばらい)』(1971)などがある。このころまでの作品では、舞台はほとんどつねにニースの街であり、南フランスの強烈な太陽が、あるときは眼(め)、あるときは鏡として、その世界を支配する至高の原理となっている。
 1970年代の終わりごろから、そこにいくつか新たな要素が加わってル・クレジオの文学世界を豊かにする。まず『パワナ――くじらの失楽園』(1994)にみられるような、海洋冒険物語の側面である。処女作のころから、海はすでに彼の作品の重要な空間であった。次に、『砂漠』(1980)や『黄金探索者』(1985)にうかがわれるように、歴史的・神話的次元が導入されたことである。前者では、20世紀初頭のベルベル人の反乱と、彼らの血をひく現代に生きる少女ララの遍歴が交錯した物語をなしている。後者においては、20世紀初めのインド洋モーリシャス島をおもな舞台に、青年が海賊の隠した財宝を探すため旅に出るという物語である。どちらの作品も神話的な想像力が強く貫いている。そして第三に、子供や女性や異邦人というさまざまな意味で疎外された人々に対する共感である。八つの短編から構成される『モンドその他の物語』(1978。邦訳は『海を見たことがなかった少年』)においては、主人公の子供たちが大人の世界と現代文明に対して違和感を感じ、学校や家庭を捨てて自らの夢を追うために放浪する。やさしい人間たちに出会うこともあるが、ときには周囲の反感や無関心と闘わなければならない。子供たちに生の豊かさを教えるのは地中海と太陽と風である。そこには子供が試練を通じて成長していくというおとぎ話の構図を認めることができる。他方『春その他の季節』(1989)では、南フランスをおもな舞台にしながら、フランス以外の異国からやってきた貧しい女性たちが主人公である。女性であり、異邦人であるという二つの要素が彼女たちを疎外し、不幸な境遇に追い込んでいく。
 さらにル・クレジオは、ロートレアモンやジュリアン・グラックなどに関する文学評論、コロンブス以前のメキシコに関する民俗学的な著作も発表している。人気、実力からいって現代フランスを代表する作家の一人であることに異論の余地はない。2008年にノーベル文学賞を受賞。[豊崎光一・小倉孝誠]
『豊崎光一訳『調書』(1966・新潮社) ▽豊崎光一訳『愛する大地』(1969・新潮社) ▽望月芳郎訳『大洪水』(1969・河出書房新社) ▽高山鉄男訳『発熱』(1970・新潮社) ▽望月芳郎訳『逃亡の書』(1971・新潮社) ▽豊崎光一訳『物質的恍惚』『戦争』(1972・新潮社) ▽高山鉄男訳『悪魔祓い』(1975・新潮社) ▽望月芳郎訳『巨人たち』(1976・新潮社) ▽高山鉄男訳『向う側への旅』(1979・新潮社) ▽豊崎光一訳『来るべきロートレアモン』(1980・朝日出版社) ▽ル・クレジオ著、H・ギャルロン絵、大岡信訳『木の国の旅』(1981・文化出版局) ▽望月芳郎訳『砂漠』(1983・河出書房新社) ▽豊崎光一・佐藤領時訳『海を見たことがなかった少年――モンドほか子供たちの物語』(1988・集英社) ▽中地義和訳『ロドリゲス島への旅』(1988・朝日出版社) ▽望月芳郎訳『メキシコの夢』(1991・新潮社) ▽豊崎光一・佐藤領時訳『ロンドその他の三面記事』(1991・白水社) ▽望月芳郎訳『オニチャ』(1993・新潮社) ▽佐藤領時訳『春その他の季節』(1993・集英社) ▽中地義和訳『黄金探索者』(1993・新潮社) ▽望月芳郎訳『さまよえる星』(1994・新潮社) ▽菅野昭正訳『パワナ――くじらの失楽園』(1995・集英社) ▽中地義和訳『もうひとつの場所』(1996・新潮社) ▽望月芳郎訳『ディエゴとフリーダ』(1997・新潮社) ▽菅野昭正訳『偶然――帆船アザール号の冒険』(2002・集英社)』

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