アメリカの作家、カポーティの長編小説。1948年刊。少年ジョエルは、見覚えのない父を尋ねて、「されこうべやかた」と人のよぶ、南部の古い屋敷へたどり着く。「未来のすべては過去に存在する」この廃園では、死が現世の命より力をもち、物は「ひびの入った色眼鏡(めがね)」を通してしか映らず、性は正常な交配を知らない。少年の目覚めようとする自我の底を、正体定かでない幻想がよぎる。南部の湿潤な自然と、黒人奴隷制度の歴史をもつ閉ざされた地域社会が、世の営みをこの世ならぬものにする。物語は直喩(ちょくゆ)と隠喩、繊細なことばにちりばめられている。
[稲澤秀夫]
『河野一郎訳『遠い声、遠い部屋』(1971・新潮社)』
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