改訂新版 世界大百科事典 「アウルク」の意味・わかりやすい解説
アウルク (奥魯
)
aurugh
モンゴル帝国時代,戦場の後背地に設置された兵站(へいたん)部をいい,のち元朝では徴兵管区を意味した。aghrughとも転写される。原語は東部古代トルコ語といわれ,13世紀の《元朝秘史》では留守の幕営,老小の幕営などの意味で使われる。トルコ・モンゴル系の遊牧民は,古来遠征に赴く際,いっさいの家族と家財を同伴した。戦場に近づくと,婦女老幼は後方に野営して,前線に対する兵站部を構成する。モンゴル帝国では初期の大遠征が一段落し,しだいに華北などの非遊牧地域の前線に占領地保持のための軍団が常置されるようになると,この習慣が適用されて,ある軍団に対し,兵士,武器,食糧を供給する特定の地域を設定することとなった。元朝では,1271年(至元8),漢人の軍隊を兵士を出す正軍戸とその生活費を負担する貼軍戸とに分け,これらを組み合わせて州県ごとに〈奥魯〉を編成した。枢密院に属したが,旧南宋領の江南には置かれず,元末には廃止された。
執筆者:杉山 正明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報