アメリカ軍ではロジスティックスlogisticsといい,自衛隊(陸上自衛隊を除く)では後方と呼ぶ。作戦軍の生存と活動を維持・増進するため必要な軍需品,補充員等を本国から追送し,また死傷者,損傷兵器等を取り除いて本国に後送することで作戦を支援する,戦闘地帯から後方の軍の諸活動・機関・諸施設を総称して兵站という。
(1)補給業務 兵站の中心は補給業務である。作戦軍が必要とする糧食,燃料,武器,弾薬,衛生材料,その他の需品類を,本国から前線部隊まで輸送するための交通路(兵站線または後方連絡線という)が設定される。その兵站線上に各品種ごとの倉庫,補給厰,補給所等が開設され,それらに対して船舶,鉄道,自動車等により必要量が追送・集積される。これらの輸送機関や荷役部隊,倉庫業務要員,警備部隊なども兵站部隊に含まれる。現地における調達も兵站の業務となる。
(2)整備・回収業務 戦闘により破損・故障した武器,車両,通信機等は回収・後送され,破損の程度に応じて,兵站線上に展開した修理班,修理厰等において修理・整備のうえ再補給される。重い故障は本国まで後送される。捕獲兵器や不要廃品も回収・後送される。
(3)衛生業務 傷病者はその程度に応じて,兵站線上に設けられた野戦病院,兵站病院等へ後送・治療され再び戦線に復帰する。重症のものは本国の病院へ後送する。そのための病院列車や病院船を運営する。
(4)各種役務 本国から補充される人員が前線部隊に追及するための旅行・宿泊施設も兵站線上に設けられる。その他入浴,洗濯,給食,娯楽,厚生等の各種サービスや野戦郵便業務,防疫給水業務なども兵站業務に含まれる。
輸送路に沿い大量の物資を集積し,各種施設を展開した兵站線は,容易にこれを変更することができないので,よく作戦の将来を洞察して兵站線を設け諸機関を展開することが重要である。戦略指導は兵站の適切な運用に始まるといっても過言ではない。軍需品の質量ともに多様化・大量化する将来戦において兵站の重要性はますます増大してきた。
空軍では前記とは別に航空兵站組織を形成する。本国と前線航空基地との間を結ぶ航空路を設定し,航空路上要所の飛行場に後送損傷機の修理厰等を展開し,この航空路上を補充航空機が追送される。その他燃料・爆弾の補給,飛行場設定隊,気象,航空保安,通信など航空独自の兵站業務があるが,それ以外は前記陸上兵站を共用するのが一般である。
旧日本海軍では兵站という言葉は使わなかったが,その概念はあった。海軍は艦隊そのものが兵站機能を包含して作戦するので,陸軍のような兵站線を引きずってはいない。本国の海軍基地や海外の海軍根拠地に所要の軍需品を集積し,修理機関を展開し,補給船により洋上補給を行うか,さもなければ艦隊そのものが,前記基地もしくは根拠地に帰港して,補給・修理等を行うのである。
→軍需品
執筆者:栂 博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
戦争を遂行するために必要な人的、物的戦闘力を維持、増強して提供すること。現在は普通、後方という。旧日本陸軍では、作戦軍と本国における策源を連絡し、作戦軍の目的を遂行させるための諸施設とその運用を兵站といい、この連絡線を兵站線と称した。旧海軍の場合は兵站のことを戦務とよんだ。後方の対象には資材、役務、施設、人員があり、機能的には補給、整備、輸送、建設、衛生、人事、行政管理が含まれる。調達、収用、生産、招集、雇用なども必要となる。このうち人事および行政管理を除く活動を自衛隊では後方補給という。陸上自衛隊だけがこの後方補給を兵站と称している。兵站線のことを後方連絡線とよぶことが多い。
国家レベルにおいては国家兵站という語を使う。第一次世界大戦以後の総力戦時代においては、経済、政治など国力のすべてをもって戦争の遂行を支えることが求められることから、国家兵站が重視され、国家総動員をもってこれにあたる。
[藤井治夫]
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