日本大百科全書(ニッポニカ) 「アセチルアセトン錯体」の意味・わかりやすい解説
アセチルアセトン錯体
あせちるあせとんさくたい
acetylacetone complex
アセチルアセトンCH3COCH2COCH3が金属イオンとつくる錯体。アセチルアセトンにはエノール形とケト形の互変異性体があり、エノール形になると一つの水素原子を失い、二つの酸素原子によって二座配位子としてほとんどすべての金属イオンとキレートをつくる。金属の原子価や配位数によって各種の形式のキレートをつくる。
アセチルアセトンが1個の水素原子を失った配位子名はアセチルアセトナトであり、acacのような略号が常用される。これらはいずれも非電解質の分子性錯体であり、きわめて安定なため、固体を熱すると多く昇華して気体とすることができる。融点は低く、常温で液体の場合もあり、有機溶媒に溶けるが、水に難溶性のものが多い。昇華しやすいため、ガスクロマトグラフィーその他、広く分析に用いられる。
[M(acac)]
(M=Li,Na,K,Ag,Au)
[M(acac)2]
(M=Be,Mg,Cu,Zn,Cd,Hg)
[M(acac)3]
(M=In,Co,Cr,Mn,Fe,Ce,Ta,La,Nd,Sm)
[M(acac)4]
(M=Ce,Th,Zr)
単一なアセチルアセトンの錯体ではなく混合配位子の錯体として、そのほか、たとえば
[M(acac)2(H2O)2]
(M=Co,Ni)
[M(acac)(en)2]X2
(M=Co)
[M(acac)Cl4]
(M=Sb)
[MCl2(acac)2]
(M=Sn)
などのような化合物もある(enはエチレンジアミン)。
[中原勝儼]