日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガスクロマトグラフィー」の意味・わかりやすい解説
ガスクロマトグラフィー
がすくろまとぐらふぃー
gas chromatography
移動相が気体のクロマトグラフィーをいい、固定相が固体か液体かによってそれぞれを気‐固クロマトグラフィー、気‐液クロマトグラフィーとよんで区別する。気体の試料、あるいは高温試料室で気化できる液体または固体の試料の分離や定量に広く利用されている。カラム(分離管)には、吸着性固体粉末、あるいは均一な粒度をもった不活性な固体(固定相となる液体を保持するもので、これ自身は各種ガスに対し吸着能をもたず、表面積が大きいものが用いられる。担体solid supportという)に非揮発性液体を薄い膜として含浸させた固体粉末を詰め、それを恒温槽中に入れて一定温度に保つ。前者を利用するのが気‐固クロマトグラフィー、後者が気‐液クロマトグラフィーである。これらの充填(じゅうてん)物を詰めたカラムにヘリウム、窒素などのような不活性ガス(キャリヤーガス)を流しておき、その流れの中に一定量の試料を気相状態で導入する。試料中の各成分は、カラムの温度でのそれぞれの蒸気圧と充填物との相互作用、キャリヤーガスの流速に依存する速さでカラム中を移動する。適当な特性をもった固定相と十分な長さのカラムがあれば、両相の相互作用によって、試料中の各成分がキャリヤーガスとの二成分系として順次カラムの出口から各成分に分離されて出てくる。気‐固相間では吸着が、気‐液相間では分配がその相互作用のおもなものである。後者はヘンリーの法則で示される。出口から運び出された各成分は検出器に到達し、そこでその量が記録紙上に記録される。得られる山形の図形をクロマトグラムといい、その位置から定性分析を、高さあるいは面積の測定から定量分析を行う。固定相固体にはアルミナ、シリカゲル、活性炭などがあり、固定相液体にはポリエチレングリコール、パラフィン、シリコーン油などがよく用いられている。検出器には、気体の種類により熱伝導度の異なることを利用した熱伝導度検出器(TCD)や、流出ガスに水素を混ぜて燃焼させたり、あるいは放射線を照射してガスをイオン化し、適当な電界中での電流を記録する各種のイオン化検出器、また、ある特定成分に対して異常に高い感度を示すいわゆる選択的検出器、たとえばハロゲン、ニトロ基などを含む親電子成分に対する電子捕獲検出器(ECD)、有機リン化合物、窒素化合物に対する熱イオン化検出器(FTD)、有機リン、硫黄(いおう)に対する炎光光度検出器(FPD)など多くの種類が開発されている。このように検出器の種類が多く、感度も高いため、試料の蒸気圧は微少でよい。このため、かなり高沸点の試料まで測定できる。
[高田健夫]
『小島次雄他著『ガスクロマトグラフ法』(1985・共立出版)』▽『河合聡著『ガスクロマトグラフィ入門 薬学・医学・農学への応用』増補改訂版(1987・三共出版)』▽『寒川喜三郎・大栗直毅編著『熱分解ガスクロマトグラフィー入門』(1994・技報堂出版)』▽『日本分析化学会ガスクロマトグラフィー研究懇談会編『キャピラリーガスクロマトグラフィー』(1997・朝倉書店)』