日本大百科全書(ニッポニカ) 「イブン・アル・アシール」の意味・わかりやすい解説
イブン・アル・アシール
いぶんあるあしーる
Ibn al-Athīr
(1160―1234)
アラブの歴史家。ザンギー朝の高官の家に生まれ、大半をモスル(イラク北部)で過ごした。メッカ巡礼の途中に、またカリフへの使節として、しばしばバグダードを訪れて見聞を広めた。サラディンの軍隊に同行して、十字軍との戦いに参加したこともある。父と彼自身との知見をもとにザンギー朝史を著した。代表作『完史』al-Kāmil fī al-Ta'rīkhは、天地創造から1230/31年までの、イラクを中心にスペインから中央アジアに及ぶイスラム世界の大年代記で、現在では散逸した多くの史料を使っており、中世イスラム史研究のための必須(ひっす)文献となっている。
[清水宏祐]