改訂新版 世界大百科事典 「イボタロウカイガラムシ」の意味・わかりやすい解説
イボタロウカイガラムシ
Ericerus pela
半翅目カタカイガラムシ科の昆虫。別名イボタロウムシ。雄の幼虫がイボタの小枝に集団でガマの穂状の蠟塊をつくるのでこの名がある。雌雄異形で,雌成虫は無翅,体はほぼ円形で黄褐色,成熟するとほぼ球形で1cmくらいとなり,体皮は著しく硬化して暗褐色を呈する。雄は1対の翅を備えた成虫となり,蠟塊から脱出する。日本全国に広く発生するほか,中国,朝鮮半島,ヨーロッパにも分布する。イボタのほか,トネリコ,ネズミモチなどに寄生する。年1回の発生で成虫で越冬し,5月上旬ころ成熟して体の下に産卵する。通常,雌は雄に比べて著しく個体数が少なく,しばしば雄集団の蠟塊と離れて寄生する。雄幼虫のつくる蠟塊(イボタ蠟)は昔から障子やふすまの敷居に塗って滑りをよくするのに用いられた。また,この蠟塊からつくられる白蠟(ペーラ)は融点が80℃と高く,特殊な用途をもつため,かつて中国で工業生産用に養殖が行われたことがある。
執筆者:河合 省三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報