日本大百科全書(ニッポニカ) 「イボタロウムシ」の意味・わかりやすい解説
イボタロウムシ
いぼたろうむし / 水蝋樹虫
white wax scale
[学] Ericerus pela
昆虫綱半翅(はんし)目カタカイガラムシ科に属する昆虫。イボタロウカイガラムシまたはイボタロウカタカイガラムシともいう。本州以南の日本各地、および中国、ヨーロッパに広く分布する。雌は成熟するとほぼ球形で、直径10ミリメートルぐらいになる。体色は緑黄褐色で小黒斑紋(こくはんもん)を散らす。雄は幼虫時に枝に群生して白色の蝋(ろう)物質を分泌するので、虫体やその枝は蝋によって包まれる。この蝋塊中で蛹(さなぎ)となり、成虫となって出現するときは、体長3ミリメートルで細長い透明なはねをもっている。1年に1回発生して成虫で越冬する。5月ごろに数千個の卵を産み、卵は6月に孵化(ふか)する。イボタノキ、ネズミモチ、トネリコ、ヒトツバタゴなど主として庭園の樹木に寄生して被害を与える。一般に発生は多くないが、ときに大発生することがある。雄の分泌した蝋塊は、古くから「とすべり」「いぼた蝋(虫白蝋)」とよばれ、ろうそく、丸薬の外装、織物のつや出し、止血剤などに用いられた。中国では古くから四川(しせん)省を中心に、この昆虫を人為的に増やし、多量の蝋を生産していた。日本でも福島県会津地方が産地として知られ、会津蝋とよばれた。いずれもパラフィンが合成されるまでは貴重な物質であった。
[立川周二]