改訂新版 世界大百科事典 「ヒトツバタゴ」の意味・わかりやすい解説
ヒトツバタゴ
Chionanthus retusus Lindl.et Paxton
モクセイ科の落葉高木で,暖地に著しく離れた分布を示す。属名はchion(雪の)+anthus(花)で,白い花の群れ咲くさまをたとえたもの。和名は単葉(一つ葉)のトネリコ(タゴ)の意で,水谷豊文の命名にかかわる。高さ25m,径70cmの大木となる。樹皮は暗灰褐色でコルク層が発達し,皮目がある。当年枝は緑色で,開いた短毛が密生する。葉は対生し,長楕円形ないし卵形で鈍頭,長さ4~15cm,脈上に軟毛がある。5月,新枝端に花の疎な円錐状集散花序をつける。雌雄異株で,花冠は4深裂して,裂片は長さ12~20mmの倒披針状針形。雄花のおしべは2本が短い花筒内につく。雌花のめしべは花柱が短い。10月,広楕円形で長さ10~15mmの黒色の核果ができる。岐阜県東南部と隣接する愛知県の一部,対馬の北端鰐浦(わにうら)(国の天然記念物),朝鮮,台湾および中国の暖帯に分布し,日当りのよい湿潤地にはえる。中国では若葉を茶の代用とする。庭木として白い花を観賞する。東京では,東京大学構内など各地に植えられているが,昔,江戸青山六道の辻(現在は明治神宮外苑内)の人家に植えられてあった木は,名まえがわからぬのでナンジャモンジャと呼ばれていた。このように不明の珍しい木を,ナンジャモンジャと呼ぶ例は各地で他の種についてもみられ,神奈川県逗子市神武寺境内のそれはホルトノキである。
北アメリカ東南部産のアメリカヒトツバタゴC.virginica L.(英名fringe-tree)も庭園樹に利用される。枝いっぱいに花をつけるとヒトツバタゴ以上にみごとで,北アメリカ産花木としては最も美しいものの一つとされている。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報