改訂新版 世界大百科事典 「ウォールトン」の意味・わかりやすい解説
ウォールトン
Izaak Walton
生没年:1593-1683
イギリスの随筆家,伝記作者。スタッフォードに生まれ,ロンドンで徒弟修業ののち,独立してやがて富裕な商人となる。みずから築いた社会的地位と,その典雅な人柄のゆえに,指導者階級に知己が多く,なかでもJ.ダン,H.ウォトン,R.フッカー,G.ハーバートなど,英国国教会派知識人との交友は,のちにそれぞれについてのすぐれた伝記として実を結んだ。主著《釣魚(ちようぎよ)大全》(1653)はイギリス各地の川や池で各種の魚を釣るのどかなたのしみを説いた随筆風散文だが,自然や人間に注ぐあたたかいまなざしが心をうつ。内乱(ピューリタン革命)からまったく身を引いた政治的不参加の姿勢が,一種の逆説的な参加(アンガージュマン)になっていると読むこともできる。帝政ローマ期以後の西欧隠者文学の伝統を引きつつ,イギリス随筆文学に独歩の地位を占めているといえよう。
執筆者:川崎 寿彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報