日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
エコール・ナショナル・ダドミニストラシオン
えこーるなしょなるだどみにすとらしおん
École Nationale d'Administration
フランスのパリにある高級公務員・上層幹部要員等のエリート養成を目的とする高等専門大学校(グランゼコールgrandes écoles)。国立行政学院とも訳される。略称ENA(エナ)。1945年に、フランス共和国臨時政府を率いる将軍ドゴールが国家再建計画の一環として設立した。卒業生は「エナルク」とよばれ、卒業席次リストの希望順に各省庁に採用され、将来の幹部候補生として遇される。
ENAは、大学の法学部または3年制の国立政治経済学院(シヤンス・ポー)の卒業を基本的な受験資格としており、格としては大学院レベルといえる。本来、首相府の直轄機関であるが、政権により国家改革・地方分権化省なども協同官庁となっている。所在地は創設以来ずっとパリであったが、1991年に欧州統合化をもにらんで、東フランスの国際都市ストラスブールに移転する政府決定が出された。しかし、2001年の段階では関係諸当局の利害が錯綜(さくそう)し、完全な統合移転の合意がならず、ストラスブールとパリの両校で学年を分けて授業が行われている。修業年限は、2年半~3年。政治・経済・社会・国際関係等の諸コースに分かれ、それぞれが、教養課程、専門課程、実地研修課程で構成される。学生は、講義による最高度の理論教育とあわせて、中央・地方の官公庁、民間有力企業、あるいは国際機関等の現場に派遣され、きわめて実際的な政策立案や管理運営実務について研修を積む。前述した学卒受験者には26歳までの年齢制限があるが、それ以外に、公務員として5年以上の経験をもつ者も一定数受け入れている。ENAのこのような性格は、官僚国家フランスの政・官・財のハイ・エリート志望者はもとより、法曹、メディア、学術、あるいは民間・国際有力企業等の高級幹部・指導層を目ざす者にとっても、大きな挑戦対象となっているが、その「独占・独善」傾向を批判する声も少なからず聞かれる。
[井上星児]