独占(読み)ドクセン(英語表記)monopoly

翻訳|monopoly

デジタル大辞泉 「独占」の意味・読み・例文・類語

どく‐せん【独占】

[名](スル)
自分ひとりだけのものにすること。ひとりじめ。「人気を独占する」
特定の資本が他の競争者を排除し、生産と市場を支配している状態。
[類語]専有独り占め握る押さえる制する掌握確保保持占有手中に収める・我が物にする・支配

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精選版 日本国語大辞典 「独占」の意味・読み・例文・類語

どく‐せん【独占】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 他人を排してひとりで占有すること。ひとりじめにすること。
    1. [初出の実例]「有名なるターナーは最後の一室を独占(ドクセン)して居ますが」(出典:園遊会(1902)〈国木田独歩〉三)
    2. [その他の文献]〔蘇軾‐和章七出守湖州詩〕
  3. 経済で、特定の資本が他の競争者を排除して市場を支配し、利益を占有すること。
    1. [初出の実例]「独占の実がある以上は民有を非とするのが当然だ」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉鉄道国有)

ひとり‐うらない‥うらなひ【独占】

  1. 〘 名詞 〙 占者の力によらず、自分自身で占うこと。また、その方法について記した書物。
    1. [初出の実例]「ヒュースケンの使ひ残しの薬液と、ウンシンの使ひ古しの機械とで独占(ヒトリウラナヒ)をおくように自修自得の歩を進めつつ」(出典:江戸から東京へ(1923)〈矢田挿雲〉八)

ひとり‐じめ【独占】

  1. 〘 名詞 〙 そのもののすべてをひとりで保有して他の人に譲らないこと。どくせん。
    1. [初出の実例]「天下の果報の一人(ヒトリ)じめ」(出典:別れ霜(1892)〈樋口一葉〉一)

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改訂新版 世界大百科事典 「独占」の意味・わかりやすい解説

独占 (どくせん)
monopoly

地理的範囲および商品の性質で限定される一定の市場での取引を,一企業が一手に握ることを独占という。ただし現実には一企業による市場の支配という文字どおりの独占は少なく,比較的少数の企業が市場を支配する寡占(その特殊形態が複占)が多い。多数の企業からなる競争的市場からの乖離(かいり)を指して,すなわち寡占も含め独占という語句が用いられることも多い。また,市場の売手側に独占が生じることが多いので,経済学は売手独占を分析することが多かったが,最近では買手独占にも関心がもたれている。

一定の商品の地理的に限定された市場における独占力が独占力の基礎的概念であり,この独占力を発揮する目的でカルテルトラストという形態の独占が形成される。法律的に独立な複数の企業が協定を通じて,生産,投資,顧客などを割り当て,価格を固定して,競争を制限することをカルテルという。協定によらず,企業間の暗黙の合意によってカルテルと同様の効果が現れることもある。企業間でコスト条件や生産能力と販売能力の乖離などの利害を異にする事態に至ると,カルテルはしばしば崩壊するので,独占の形態としては不完全である。これに対して,トラストは典型的な場合,合併によって諸企業を一つの企業体に統合するので,トラストによる競争制限はカルテルによるそれよりはるかに強力かつ持続的である。

 一つの市場での独占力をてこに,企業が別の市場でも独占力をふるうことがある。経営の多角化によって多数の市場で活動するコングロマリット企業グループの場合,一つの市場で独占力を有すれば,相互取引を通じて他の市場でもその独占力を発揮できる。第2次大戦前の日本の財閥のようなコンツェルンの独占力はこの種の独占力に基づいている。

市場で独占が形成されるのには,さまざまな原因がある。第1に,市場で活発に競争が行われ,製品開発・販売政策・組織革新などに優れた経営手腕を発揮した企業が市場占有率マーケット・シェア)をしだいに高め,独占状態が形成されることがある。市場経済ではこのような現象は避けがたく,かつ,この種の独占は経済厚生の点からは問題が少ない。また,独占の形成に寄与した経営の優秀さが消滅すれば,シカゴ学派の経済学者が強調するように,時間の経過につれて独占状態はしだいに解消される傾向がある。

 しかし,経営の優秀さが独占の唯一の原因ではない。下位企業を市場から排除する略奪的商慣行や大規模な合併など,上位企業の独占的行為が独占を形成・維持することもある。とくに合併の影響は大きく,たとえば19世紀末から20世紀初頭と1920年代の2回の大合併運動で,アメリカの主要大企業は成立したし,日本やヨーロッパでも1960年代の合併・産業再編成の衝撃は大きかった。合併によって誕生した独占は,市場で優劣の判定を経たものでないので,経済厚生の点からは問題が多い。

 潜在的競争者の競争圧力から既存企業を隔離する参入障壁も,独占を形成・維持する重要な要因である。市場規模にくらべ効率的工場の規模が大きすぎ,参入後の価格暴落が必至であったり,効率的規模の工場の建設資金が膨大で,潜在的参入者の資金調達能力を超える場合,すなわち規模の経済性が著しい場合は,既存企業は潜在的参入の脅威から守られ,独占利潤を享受しつづける。また,多くの消費財産業で,顧客誘引の手段として用いられる宣伝広告やモデル・チェンジの費用が,弱小企業や潜在的参入者には過大な負担となり,既存大企業の市場占有率が上昇を続ける傾向がみられる。これを製品差別化といい,市場規模の拡大した今日では,参入障壁の形成要因のうちでもとくに重要度が高まった。

独占力をもつ企業は,競争的環境に置かれた企業とは異なるさまざまな行動をとる。最もありふれた独占的行動は,カルテルなどによって競争を制限し,価格を高水準に固定する価格固定price-fixingである。品目ごとに詳細な価格表を用意する古典的価格カルテルをはじめ,企業間の暗黙の合意のみにその基礎を置くプライス・リーダーシップ,全国いずこの工場で生産されたかにかかわりなく,業界内で設定した基準地点での工場渡し価格に輸送費を加算した販売価格を設定して競争を制限する基準地点価格制basing point pricingなど,さまざまな形態の価格固定がある。

 商品の性質上,転売が困難な商品の独占的売手は価格差別を行う傾向がある。同種の欲求を充足する商品もしくはその供給先を他にもたない買手の需要は,そうでない買手の需要にくらべ,弾力性が低い。この2種類の買手が互いに商品を転売したりすることが不可能ならば,独占的売手は同一の価格をこの両者に適用せずに,需要が弾力的な買手に低価格を,非弾力的な買手に高価格を適用して,利潤を増加させることができる。貨物輸送をはじめ各種のサービス業で,価格差別が発生することが多い。

 独占企業はまた,市場分割や顧客割当てによって互いに競争を抑制することがある。とくに第2次大戦前には,染料や火薬などの分野で,欧米企業が国際カルテルを結成して世界の市場を分割,独占したことがあった。

 こうした独占的行動のほかに,垂直的統合や経営多角化を進めた大企業が競争相手に激しい攻撃を加える強圧的行動と呼ばれる企業行動がある。たとえば,多角化によって一部門の損失補塡(ほてん)を行える大企業は,市場での規律回復や競争相手の排除を目的として,一定期間コスト割れの低価格をつける略奪的価格引下げpredatory pricingを行うことがある。製品の最終販売までを統合した企業がたとえば原料部門で独占的地位を確立しているとき,他企業への原料供給価格をつりあげ,加工部門に特化した企業に打撃を与える行動は,価格圧縮price squeezeと呼ばれる。そのほか,他企業と取引しないとの条件をつける排他的取引や,相互取引,抱合せ販売など,個別企業間では有利な取引であっても,競争相手にとっては実質的に競争制限効果をもつ商慣行は多い。

独占の経済効果として最も広く認められているのは,供給制限と価格引上げにかかわるものである。独占状態から出発して,独占の経済的ロスを図で見てみよう。独占企業は限界費用(MC)と限界収入(MR)を一致させる数量(Qm)を供給し,価格はPmと高水準に設定する。独占が解体されると価格はMCに等しいPcに下落し,供給量はQcに増加する。すなわち,独占は供給制限によって価格を引き上げ,独占利潤(PmABPc)を獲得するとともに,ABCに相当する資源配分上のロスallocative lossが発生する。このロスは現実にはかなり小さいのではないかという疑問が提出されたが,1964年ライベンシュタインHarvey Leibenstein(1922-94)により,競争状態から離れるほどコストの上昇をもたらすというX(エツクス)非効率X-inefficiencyの概念が提示された。競争状態から隔離された独占的大企業では,経営者も労働者も最大効率追求の動機をもたず,組織効率が低下しがちである。X非効率を考慮して,完全競争下の限界費用がMCt(<MC)であるとすると,価格はPct,供給量はQctとなる。つまり,独占によるほんとうのロスは,X非効率(PcBEPct)と資源配分上のロス(ABC)と拡大された資源配分上のロス(BCGE)の合計になる。このようにX非効率を考慮に入れると,独占による経済厚生のロスはけっして小さくない,という考え方が一般的である。

独占の効果は価格や供給量だけでなく,研究開発や広告活動にも現れる。研究開発は経済の進歩に不可欠であるが,それに必要な科学技術水準の飛躍的上昇により,天才的個人よりも企業,とくに大企業の研究開発面での役割が大きくなってきた。研究開発資金の調達,研究開発のもたらす利潤による動機づけのいずれの面でも,独占的大企業が研究開発活動をリードする十分な根拠があるとするのが,シュンペーター=ガルブレース仮説である。この仮説には異論も多く,多くの実証研究によれば,若干の例外的産業を除けば,競争の要素に乏しい分野では研究開発活動は活発でないことが多い。また,市場が独占化されると,価格競争が回避される一方,広告やモデル・チェンジなどの非価格競争が激化し,販売費が膨張するという懸念も強い。

 このほか,独占化によって価格の下方硬直性が強まり,一般的物価騰貴の原因になりはしないかという管理価格インフレ,独占価格の非伸縮性が生産や雇用の大幅な変動をもたらさないか,独占企業の経営者に与えられる自由裁量権が,従業員の採用に際して女性や少数民族に差別的に行使されないかといった諸問題にも,関心がもたれるに至った。

独占規制の必要を説く声は経済学そのものと同じほど古い歴史をもつ。今日ではほぼ3種類の独占対策が講じられている。その第1は,規模の経済性が市場経済の機能を妨げない産業分野に,カルテルやトラスト,不公正な取引方法などを禁じた独占禁止法を適用することである。独占禁止法制には各国でかなりの差異があるが,1970年代には発展途上国でも独占禁止法制定の動きがあった。

 第2は,私企業の活動を免許制や料金の認可制によって政府が直接規制する方法である。通信,交通,金融など多くの分野で直接規制が加えられていたが,70年代以降アメリカを中心に規制緩和の動きが目立つ。最後に,私企業の活動になじまない分野では公企業を設立して,独占の弊害を防ぐこともある。

 このほかに,政府の資材調達や国際貿易政策,特許制度など市場での競争に直接影響を及ぼす政策があるが,それらの本来の目的は独占対策以外にあることが多い。
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他の多数の資本とはかけ離れた大規模な資本(企業または企業グループ)が,単独または少数で,関連する分野の生産,流通,金融などに支配的影響力を及ぼす状態をいう。また,その状態にある資本(独占資本)そのものを指すこともある。〈自由競争〉という言葉と対比的に用いられるが,資本主義的な私企業間の競争のあり方が変わるということであって,一般に競争がなくなるわけではない。つまり,主要な産業分野に独占が成立すると,それまで多数の小規模企業による自由競争が一般的だった段階でみられたのとは異なる特徴が,資本主義経済の全体的な動きのうえに現れるようになる,ということである。

19世紀末葉以後の後期資本主義が,それ以前の自由主義時代との対比において,まさにそのような特徴を示すものであった。当時,遅れて資本主義化したドイツやアメリカが,しだいにイギリスに対抗するようになるが,それらの国では重化学工業など巨大な設備を要する産業が,個人企業の自己蓄積にかわる株式会社組織の大企業によって推進され,また,イギリス型の商業銀行業務とは異なる産業金融が重要な役割を果たすことになり,産業と金融の融合による少数の独占体に経済力が集中されていった。それとともに,資本主義世界の経済動向には,イギリスを〈世界の工場〉としていた時代とは異なる種々の新しい現象が現れてくる。その代表的なものが景気循環の発現のしかたの変化であった。また,経済政策面では,それまでの自由放任主義レッセ・フェール)の傾向が転換し,帝国主義の時代を迎えることになった。つまり,独占の力は,経済活動のなかで発揮されるだけではなく,政治の領域でも発揮されて,経済政策はもちろん,外交・軍事にまでも影響を及ぼしたのであった。この状況は今日でも基本的には続いているといってよいが,2度の世界大戦を経て主要国の政治状況が変わったため,独占の力を制限する政策が重要性を増し,それが経済の動向に大きな影響をもたらすようになっている。

 経済学の抽象モデルでは,市場の売手または買手として文字どおりひとり占めの独占を,売手や買手が二つの複占や三つ以上の寡占と区別することもあるが,歴史上広く行われてきた用語法では単一の場合だけに限定されない。〈独占禁止法〉のような用例もこのような伝統によるものである。ただし,最近では,同じ意味を表すのに寡占という言葉も多用されるようになっている。資本主義の初期にも,19世紀末以降とは異なった意味で独占が大きな役割を果たした。経済上の競争制限の意味でこの言葉が広く用いられるようになったのはこの時代であり,国王や諸侯によって個人や団体に与えられる,特定商品・特定地域の貿易など特定の経済活動に関する排他的特権を意味するものであった。これらの独占は,前期重商主義政策の一環として,王や諸侯の財政をうるおしただけでなく,初期の資本蓄積に大いに貢献したが,やがて弊害が強まり,イギリスでは17世紀後半に,また大陸ヨーロッパでも18世紀中に廃止に向かった。19世紀末以後の独占は,政治権力によって与えられたものではなく,資本主義の自生的な発展のなかから経済力そのものとして生み出されたものであり,その力によって逆に政治権力を左右するようにもなったのである。

自由競争が行われていると,市場で取引される商品の価格や量を個々の売手・買手が意図的に操作することはできない。しかし独占の場合には,そのような操作がある程度可能になる。このような力を市場支配力と呼ぶ。市場支配力によって売手が高く維持している価格が独占価格である。取引相手の状況をみて価格差別を設けることもある。売手として高い価格を,買手として安い価格を強いるほか,リベート,付帯サービス,他商品との抱合せなど,種々の条件を強いることによっても利益を高めることが可能であり,自由競争のもとで実現されるであろう利潤よりも大きい,いわゆる独占利潤を獲得する。取引相手に対して,このように自分との取引を自分に有利に行わせるというだけでなく,さらに,自分以外との取引に干渉することによって,自分の競争相手(同業の企業)の販路を閉ざしたり調達を困難にしたりもする。このようなことは,商品の売買に際してだけでなく,運輸や金融の面でも行われて,競争相手を倒し,市場支配力をいっそう高める手段になるのである。

 単独で十分な市場支配力を発揮できない場合には,複数の大資本の共同行為によってこれを実現しようとする。価格や生産量を協定するカルテルや,進んで共同販売機関を設けるシンジケートなどがその例である。法律で共同行為が禁じられている場合には,プライスリーダーシップなど共謀の証拠を残さない方法がとられる。しかし,協定違反者に制裁を加えることができなくなるから,協定そのものを無用にするような単一の大規模企業化の道がいっそう重要性を増す。大規模化は,新規拡張によらなくとも既存企業との結合によって急速に実現される。合併によって名実ともに同一企業になるほか,多数の企業の議決権株を信託させるトラストや持株会社による支配(コンツェルン)も有力な手段である。より緩やかな結合を,株式の持合いや重役派遣,業務提携などによって実現している企業集団の存在も,ことに他の形での結合が違法とされているような場合にはいっそう重要である。このような結合方式の多くは一つの産業分野の活動に限定されないから,独占の力は,多面的に生産,流通,金融の諸分野にわたって発揮されうるものとなり,少数の巨大グループが経済界全体に支配的な影響力をもつようになる。第2次大戦前の日本の財閥は,強い結合体の代表的な例であるが,戦後の財閥解体を経て,より緩やかな企業集団として再編成されてきた。

 このような独占資本を,大産業資本と大銀行資本の融合という点に着目して,金融資本とも呼ぶ。二つの言葉がほぼ同じ対象を指して用いられているわけであるが,ニュアンスとしては,経済力集中に焦点を合わせたのが前者,結合の組織における金融の役割に焦点を合わせたのが後者といえよう(用語の差が学説の差を反映している場合もある)。独占の力は,当然,政治の領域でも行使され,産業政策,通商政策など,自己に有利な経済政策が求められるだけでなく,海外での勢力圏確保に国家権力を動員し,権益擁護のための海外派兵や列強による植民地支配が公然と正当化される。こうして,外交的対立から戦争の不可避性も高まる。独占の要請する国家の政策体系は帝国主義と呼ばれて,時代を特徴づけるものとなった。

独占による収奪は,取引や競争の相手になる中小企業,農民,あるいは消費者から,当然,非難の対象とされる。反独占運動が高揚し立法措置が最も早くとられた国はアメリカで,1890年にシャーマン法が成立している。民主主義的な政治制度が定着しており,しかも東部の大資本によって不利な取引を強いられる農民や中小企業主が開拓地で新しい政治的地盤をつぎつぎに形成できたからである。ヨーロッパや日本のように,資本主義の発展とともに近代国家への道を歩みつつも,伝統的な権力機構が十分に解体されていなかった国々では,その機構がむしろ独占に有利に利用されることになって,大衆的基礎に立つ反独占政策が重要な政策スローガンになるような条件を欠いていた。アメリカでも,独占は,選挙を左右することまではできないにしても,実質的に政府を動かす力はもっていたから,反独占運動の特別の高揚期を除けば,反トラスト法の適用を骨抜きにし,むしろ法文上の〈取引制限のための共謀〉を大企業の共同行為にではなく労働組合に適用して弾圧の道具にするというような露骨な逆用も頻繁に行われた。しかし,両大戦を経て,民主主義を掲げる連合国側が勝利し,しかも,外に社会主義圏の成立・拡大,内に軍事動員の必要や戦後の混乱の沈静化の必要から,労働者や農民などの経済的弱者に対しても政治上の権利や経済上の保障を与える方向に政治のあり方が変わらざるをえなかった。アメリカ以外の主要資本主義国も,独占資本の露骨な力の行使を制限する政策をとるようになった。そのなかで通常反独占政策の柱と考えられているのは競争制限的な行為や不公正な取引を取り締まるための独占禁止法である。もっとも,このいわゆる独禁政策は中途半端なものにならざるをえない。この政策の理論的根拠の一つは,競争条件の回復による経済効率の上昇ということであるが,競争そのものの中に資本の大規模化や競争企業の淘汰の可能性が内包されているから,大規模化への傾向に制限を加えることが資本の活力をそぐという形で経済の効率性を損なう可能性も否定できないのである。また,企業活動に種々の制約を加えられる大資本は,その政治的影響力を行使して,たえず独禁政策を形骸化しようとする。さらに,法律の性質上,独占そのものよりも,中小企業の共同行為のほうが網にかかりやすいといった問題も無視しえない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「独占」の意味・わかりやすい解説

独占
どくせん
monopoly 英語
monopole フランス語
Monopol ドイツ語

独占とは、その語源が「唯一の売り手」を意味するギリシア語に発することからも明らかなように、ある企業(ないし企業群)が、その市場ないし産業を専一的に支配している状態をいう。

[内島敏之]

近代経済学からみた独占

近代経済学においては、主として機能的な側面から独占を分析する。売り手が1人のときを売り手(供給)独占、買い手が1人のときを買い手(需要)独占、売り手と買い手がともに1人のときを双方独占というが、近代経済学で独占というときは、売り手独占をさすと考えてよい。

 独占がなぜ存在するかの理由としては次の三つがあげられる。

(1)規模の経済のため、多くの企業よりも一企業で生産したほうが費用が安くなるという理由。電気、ガス、鉄道、電話、航空などの公益事業が妥当する。規模の経済のために独占が形成される場合を自然独占natural monopolyという。

(2)希少な資源を一企業が完全に支配しているために独占が存在する。希少な資源には、鉱山、温泉などの天然資源や他の原材料などのほか、特許などの知識も含まれる。

(3)生産物の唯一の売り手である権利が国あるいは企業に免許の形で与えられるために独占が存在する。たばこは専売公社から民営化されたとはいえ、独占企業である点でこの例に含まれる。

[内島敏之]

独占企業の価格決定

の(1)のように完全な独占力を有する独占の需要曲線DDは右下がりである。利潤最大を目的とする独占企業は、限界収入MRと限界費用MCとが等しくなる生産量Qmを選択する。これに対応して価格はPmに決定される。価格と生産量の積である販売収入はOPmMQmである。平均費用曲線ACであると、生産量と平均費用の積で示される生産費用はOGFQmとなる。販売収入と生産費用との差はPmMFGとなるが、これが独占企業の利潤を示す。需要条件や費用(技術)条件が変化しないと、新規参入の可能性がまったくないので、この利潤を独占企業は享受し続けることができる。

 いま、この産業が完全競争的であるとすると、完全競争産業の供給曲線は限界費用曲線MCである。このとき、価格イコール限界費用が成立するので、完全競争解は点Cで示され、価格はPc、産出量Qcとなる。独占解の点Mとこの点Cを比較すると、独占の場合には、価格は高く、産出量水準は低くなることがわかる。社会全体の見地からすると望ましい産出量水準はQcであるが、独占のもとではQmしか生産されない。したがってQcQmとの差に対応するだけの設備が利用されておらず、独占のもとでは過剰生産能力が存在している。資源が効率的に配分されていないのである。

[内島敏之]

自然独占

規模の経済が存在すると、なぜ完全競争ではなく独占が形成されるのかをみてみよう(の(2))。

 規模の経済は、平均費用曲線ACが右下がりであることを意味する。つまり、たくさん生産するほど一単位当り費用は安くなる。このとき、限界費用曲線MCはつねに平均費用曲線ACの下方に位置する。独占解は点Mであり、価格はPm、産出量はQmであり、利潤は薄赤部分で示される。限界費用曲線MCと需要曲線DDの交点Cは、完全競争解と考えてよいであろうか。点Cでは、価格はCQc、平均費用はGQcとなる。平均費用が価格をGCだけ上回っている。このため完全競争企業は、つねに赤字を出すことになる。価格イコール限界費用のルールに従って操業する企業は、プラスの利潤をあげることはできないので、点Cを完全競争解と考えることはできない。

 このように規模の経済が作用する経済では、完全競争は達成されず、独占が存在することになる。しかし、社会的にみて望ましい産出量は、点Cに対応する産出量Qcである。独占は社会的な見地からすると少なすぎる産出量Qmしか生産しない。独占企業に産出量Qcを生産するように政府が規制するケースが考えられる。点Cで操業すると、独占企業は産出量一単位当りについてGCだけ損失を被るから、GC分を政府が補助金でカバーすればよい。この種のタイプの自然独占の規制は鉄道業においてよくみられるが、「限界費用価格形成原理」に基づく規制である。もう一つのタイプは「平均費用価格形成原理」に基づく規制である。これは価格Pbが平均費用に等しくなるよう規制するものであり、独占は点B(需要曲線と平均費用曲線との交点)に対応する産出量Qbを選ぶ。このとき独占利潤はゼロとなる。このような規制を受ける企業の産出量は、社会的にみて望ましい産出量Qcより小さいが、規制がないときの産出量Qmより大きい。計算しにくい限界費用ではなく、計算しやすい平均費用に基づくこのタイプの独占の規制のほうが、より合理的であると、しばしば主張されている。

[内島敏之]

マルクス経済学からみた独占

資本主義体制を市場経済の体系と基本的にとらえる近代経済学によるさまざまな市場形態の比較機能論に対して、元来歴史的視点を強調し経済社会の構造的分析を特徴とするマルクス経済学の立場では、より広い視角から「独占」を考える。

 まず、独占は資本主義的市場経済の一定の歴史的な発展過程で登場するものとみる。本来、資本主義体制は、中・近世の政治権力と結び付いた特権的商業資本にかわって、市場での自由な競争を通して最大限の利潤を獲得しようとする近代産業資本の市場競争の体制として発生した。しかし自由競争は、一方で利潤獲得を目ざしての個別企業の競争的な規模拡大(資本の蓄積)を、他方で競争に敗れた弱小企業の吸収・合併(資本の集中)を促し、生産と資本の少数巨大企業(独占資本)への高い集中化をもたらした。資本主義の自由競争から独占段階への発展転化といわれる過程がこれである。たとえば、大蔵省(現財務省)の調査によれば、1996年(平成8)時点でわが国の法人企業総数のわずか0.21%を占めるにすぎない資本金10億円以上の大企業5114社は、全法人企業の総資産合計額の43.6%、資本金の63.0%、従業員の19.8%を占め、売上高の37.8%、営業利益の56.8%を占めている。この少数巨大企業への経済活動の高度集中化傾向は、現代の先進的資本主義経済に共通して認められる現実である。少数巨大企業への経済の一般的集中とともに、特定産業での大企業(群)への生産集中(出荷集中)もある。公正取引委員会の調査によれば、1994年(平成6)の日本の主要産業別の上位3社累積出荷集中度の単純平均値は、輸送用機械器具製造業の78.8%を最高に、金属製品69.5%、電気機械器具66.0%、一般機械器具64.9%、食品64.4%などとなっており、総じて製造業のほうが非製造業34業種平均値54.0%より十数ポイントほど高くなっている。

 現代の独占は、このような少数巨大企業への高い生産と資本の集中化にとどまらない。これら巨大企業は多数の子会社や系列企業を傘下にもち事業活動を行っている。先の大蔵省調査によれば、全法人企業の0.005%を占めるにすぎない最大100社(資産集中度19.4%)が50%以上の株式を所有する関係会社は4075社に上り、これら関係会社を含めると総資産集中度で23.7%となっている。つまり巨大企業の経済支配力は、生産や流通の諸段階にまたがる関連子会社や系列会社への影響力の行使を通しても発揮される。しかし、これらの集中度は、1986~1996年の10年間で7ポイントほど低下している。

 さて、以上のような独占的な企業結合は、生産物やサービス取引面とともに、株式発行や資金融資さらには役員の相互派遣といった資金的・人的結合関係によっても支えられる。歴史的にみて独占的な巨大企業と企業結合体の形成の有力手段となったのは株式会社制度であった。この制度によって社会に遊休している莫大(ばくだい)な資金を動員して、利潤などの内部資金の限界を超えた企業規模の拡大が可能となり、他方では株式所有の分散化に伴って少数の株式所有による他企業支配(これを支配の集中という)が可能となったからである。そして資金の社会的動員を担い株式発行業務を担う巨大銀行の影響力も増大する。かつてドイツ社会民主党の理論家R・ヒルファーディングは「銀行が管理し産業が使用する資本」を金融資本とよび、以来マルクス経済学の伝統では、巨大産業と巨大銀行とを統一的に支配する金融資本こそ、独占と独占資本主義を支配する資本形態とみなしている。しかし、現代の先進資本主義での主要な大株式所有は、個人株主から離れ、巨大保険会社や銀行、巨大産業企業といった機関所有者によって占められている(日本の場合、機関所有比は70%前後であり、その割合は徐々に高まっている。個人株主比は27%前後)。

 以上のように生産と資本の高度な集中を土台に株式所有や人的交流を通して経済活動を支配する巨大企業と独占的企業結合体が、マルクス経済学での独占のもっとも基本的な形態である。そして独占と金融資本的支配体制としての独占資本主義下の独占諸形態は、
(1)同一産業での横断的な企業結合による生産と価格面での協調行動を特徴とするカルテル
(2)共同企業による独占的な購入・販売機関の形式をとるシンジケートまたはトラスト
(3)多産業にまたがっての企業の金融資本的支配を特徴とするコンツェルン(第二次世界大戦前の財閥や現代における企業集団)
などが区別される。独占は、その巨大な経済力を利用して独占価格を通して消費者や中小企業を搾取・収奪するにとどまらず、国家の政治や政策への影響力を行使し、原料や市場の獲得を目ざして海外にもその独占力を拡大する。また、独占はその支配力に安住し経済進歩への活力を欠き、資本主義経済の停滞化と腐朽化の原因となるものとして厳しく批判される。しかし現代の厳しい国際競争を考えると、こうした一国主義的な独占規定の再検討が求められている。

[吉家清次]

『P・A・サムエルソン著、都留重人訳『経済学(原書第11版)』全2冊(1981・岩波書店)』『妹尾明編『現代日本の産業集中』(1983・日本経済新聞社)』『『経済構造の変化と産業組織』(1992・公正取引委員会)』『『財政金融統計月報』544号(1997・大蔵省)』『『公正取引委員会年次報告』各年版(公正取引委員会)』『奥野正寛著『ミクロ経済学入門』(日経文庫)』『R・ヒルファーディング著、岡崎次郎訳『金融資本論』(岩波文庫)』『レーニン著、副島種典訳『帝国主義論』(大月書店・国民文庫)』


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百科事典マイペディア 「独占」の意味・わかりやすい解説

独占【どくせん】

ある商品が一つの企業だけによって供給され,競争相手がいない状態。近代経済学はこれを不完全競争と呼び,1人の売手や買手が多数者と取引する単純独占,2者または少数者対多数者の複占または寡占に分ける。→独占禁止法
→関連項目市場の失敗独占価格

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普及版 字通 「独占」の読み・字形・画数・意味

【独占】どくせん

独り占め。宋・軾〔章七(惇)の出でて湖州に守たるに和す、二首、二〕詩 兩卮(りやうし)(杯)の春酒、眞に羨むに堪へたり 獨り占む、人(じんかん)外の榮

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「独占」の意味・わかりやすい解説

独占
どくせん
monopoly

一般に特定の単一ないし少数の資本が生産と市場を支配している状態,またはこのような資本そのものをいう。経済学でいう狭義の独占は,買手に対して売手が単一であるような市場構造をいう。また売手に対して買手が単一である場合には買手独占ないし需要独占という。独占者の供給する商品にほかの代替物のない場合は完全独占となる。しかし現実的には主要産業の各分野ごとに,いくつかの巨大企業が存在する寡占の状態が普通である。 (→産業組織論 )  

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栄養・生化学辞典 「独占」の解説

独占

 市場で,供給者,需要者,もしくはその両方が単一の場合.

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世界大百科事典(旧版)内の独占の言及

【モノポリー】より

…アメリカで人気のあるボードゲーム。モノポリーは〈独占〉の意味。ゲームの発明者は失業中の電気技師チャールズ・ダロウといわれ,1930年代の大不況のとき,パーカー・ブラザーズという玩具会社がその権利を買いとり大ヒットさせた。この会社の宣伝によるとおよそ半世紀の間に世界中で8億セットを売ったという。ゲームは2人以上8人まで一度にプレーすることができる。各プレーヤーは2個のさいころの目によって自分の駒を進めていき,その升目にあたる土地の権利書を買いとる。…

【価格】より


[価格制度の限界]
 価格制度の働きの説明を終わるにあたって,この制度の限界に簡単にふれておく。とくに重要なのは公共財と独占である。公共財は,ある経済主体によるその消費が,他の経済主体によるその同時的消費を排除しない財とサービスと定義され,国防,公園等が代表的な例である。…

【競争】より

…以下では市場の形態を主としてそこに参加する主体(とりわけ企業)の数に依拠していくつかに区別してみよう(表参照)。 まず,一つの市場に存在する企業の数が1の場合は独占であり,それは当面の企業が生産物の供給者であるか需要者であるかにしたがって供給独占あるいは需要独占に区別される。また両者とも単一の企業である場合を双方独占という。…

【不完全競争】より

…そこで不完全競争とは,一企業がたんに〈一滴〉でないか,市場が〈大海〉でないか,どちらかの状態であるといえる。前者の極端な例としては,市場にただ一企業しか存在しない独占の場合があげられる。他企業でしばらくまねのできないような画期的な新製品を発売した企業とか専売会社の場合などがそれにあたる。…

※「独占」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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