複数の自由意思の合致の意であり,絶対主義による同調conformityの強要への対抗概念である。統治が合意に基づくべきであるという近代民主主義の基本原理は,中世西欧以来の統治原理にその起源をもつ。王が同輩中の第一人者とされる時期には支配的な意思への合致である同調は自明の前提であるが,王権の伸張と諸身分の形成が行われるにつれて,〈合意による支配(統治)government by consent〉の観念が明確に主張されるようになる。この場合,合意は,おもに王の課税権と諸身分の承認権との交渉を通じて,身分制議会において形成されるとみなされた。この合意の観念は,社会契約説の登場で大きく転換する。ホッブズは個人の自然権の全面的肯定から出発し,戦争状態克服のための構成員全員一致による政治社会設立を構想する。ここに合意の観念は政治社会そのものの構成原理の問題となった。ホッブズにおいては設立された政治社会の意思は君主の意思に体現されるため,君主の絶対性が結論されるが,自然状態における自然法の支配を前提とするロックは,政治社会の目的を自然権の保障とし,近代自由民主主義を基礎づけた。またルソーは政治社会の意思を一般意思と規定し,その現実化たる法の支配によって,自由と平等の理念の貫徹をはかった。このように,近代民主主義理論は治者と被治者の原理的同一性から出発しており,その区別を前提とする統治の観念との間に不断の緊張を生じる。しかも,構成員全員の意思の確認が経験的に不可能である以上,全体の合意はつねに擬制たらざるをえない。この矛盾は,一般的同意と個別的同意との区別,後者に対する多数決原理の導入,その保障としての参政権の制度化等によって調整されることになるが,このこと自体,あらたなる擬制たらざるをえない。直接民主制の導入は,このようなアポリア(難題)に対する保障として繰り返し要求されるが,大衆社会の進展と社会の複雑化に伴って,権力と民衆との距離感が増大するにつれて,むしろ権力の偽装と神秘化の手段たる危険が指摘されえよう。
→コンセンサス
執筆者:吉岡 知哉
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…政治に対する認知や態度の基本的な点に関して,人々の間に高度の合意が存在することをいう。価値と利害の多元性を前提とする社会では,人々の間に多様な対立が存在するのが常態である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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