大学の一部または独立の高等教育機関で、学部卒業生(学士号取得者)およびこれと同等以上の学力があると認められた者が、さらに精深な学術・技芸を探究するところである。英米ではgraduate school、またはpostgraduate schoolとよばれる。
[金子忠史・江原武一]
大学院の淵源(えんげん)は、ヨーロッパ中世の大学および学位・称号制度の歴史とともに古く、学位審査ないしは授与する権限をもった大学は、ほとんど例外なく大学院相当の機関ないしは課程をもっていたといえる。上級学位レベルの組織的な制度として、イギリスの1438年創立のオール・ソウルズ・カレッジAll Souls Collegeが、もっとも古い独立の大学院の例であろう。アメリカの1876年開校のジョンズ・ホプキンズ大学Johns Hopkins Universityは、独立の大学院大学の構想のもとに発足した。
[金子忠史・江原武一]
日本では、1886年(明治19)の帝国大学令によって大学院の名称が明文化された。この旧制大学院は分科大学とともに大学を構成し、「学術の蘊奥(うんのう)を攻究する」場であり、博士(はくし)の学位を授ける機関となった。1918年(大正7)の大学令で、学部に研究科を置くか、または、数個の学部の上に大学院を置くことを官立・私立の全大学に義務づけた。
[金子忠史・江原武一]
第二次世界大戦後、学制改革によって、スクーリングを原則とする新制大学院が、1950年(昭和25)私立大学を皮切りに、1953年より国・公立大学に順次発足した。現行制度は、1947年制定の学校教育法と大学院基準および1974年の大学院設置基準の制定に伴う学校教育法改正に基づいている。大学院は、学術の理論および応用を教授研究し、その深奥をきわめ、または高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識および卓越した能力を培い、文化の進展に寄与することを目的とする(学校教育法99条)。大学院における課程は修士課程(標準修業年限2年)、博士課程(標準修業年限5年。医学、歯学、獣医学は標準修業年限4年)、専門職大学院の課程である専門職学位課程(標準修業年限2年)に区分される。博士課程は前期2年、後期3年の課程に区分するものと、5年一貫のものも認められている。
1987年(昭和62)、高等教育のあり方に関する審議を行う機関として、大学審議会(大学審)が設置された。1991年(平成3)の大学審の大学院設置基準改正により、大学院大学(独立大学院)、連合大学院、連携大学院など新形態の大学院が発足するなど、1980年代後半より大学改革・大学院改革が進められている。2008年の大学院在学者数は修士課程16万5422人、博士課程7万4231人、専門職学位課程2万3033人である。日本の人口1000人当りの大学院生数は2.1人、学部学生に対する大学院生の比率は10.4%(2008)であり、アメリカの8.5人、16.9%(2005)、イギリスの9.4人、43.5%(2006)、フランスの8.4人、69.2%(2006)などに比べて大きな隔たりがある。
[金子忠史・江原武一]
『宮原将平・川村亮編『現代の大学院』(1980・早稲田大学出版部)』▽『江原武一・奥川義尚著『アメリカの大学院評価――大学院教育の専門分野別評価を中心に』(1992・広島大学大学教育研究センター)』▽『有本章編『大学院の研究――研究大学の構造と機能』(1994・広島大学大学教育研究センター)』▽『石井紫郎編『転換期の大学院教育』(1996・大学基準協会)』▽『新堀通也編『夜間大学院――社会人の自己再構築』(1999・東信堂)』▽『B・クラーク編著、潮木守一監訳『大学院教育の研究』(1999・東信堂)』▽『江原武一・馬越徹編著『大学院の改革』(2004・東信堂)』▽『文部科学省編『教育指標の国際比較』(各年版・国立印刷局、平成20年版以降は文部科学省ホームページにてPDF形式のファイルで提供)』
大学卒業後に専攻分野の学習と研究を行う機関。専門職能教育,研究者の育成がおもな役割であるが,現代ではすでに専門職に就いている者の再教育の場としても重視されている。もっとも,大学院的な機関の制度や形態は一様ではなく,アメリカ,イギリス,日本のように卒業後課程(ポスト・グラデュエート・コースpost-graduate course,グラデュエート・スクールgraduate school)として定型化している国もあるが,フランス,ドイツ,ロシアなどのように,もっぱら学位取得のコースだけがあって,独立の機関とはいえない国もある。
独立組織としての大学院制度は,19世紀半ば以降アメリカで発達した。大学は学術研究の場であるというドイツの大学のあり方に影響されたアメリカの諸大学は,リベラル・アーツ(自由七科)の教育を行う学部と卒業した者を学位取得に向けて学ばせる大学院をつくりだした。まず医学,法学,神学,工学などの大学院が生まれ,20世紀に入ってからは他の専門諸分野にも広がっていった。
日本では,1886年帝国大学設置の際に大学院という機関をはじめて設け,分科大学(学部)と並んで大学を構成する必須の機関とし,さらに卒業後は博士の学位を授与することができるとした。このいわゆる旧制大学院は1918年の大学令によって公・私立大学にも必置の機関とされたが(1学部だけを置く大学では研究科と称された),その内容は組織的でなく,カリキュラムなども不定型であって,修業年限も定まっていなかった。第2次大戦後の学制改革により,アメリカに範を求めた現在の大学院制度(新制大学院)が生まれた。〈学術の理論及び応用を教授研究し,その深奥をきわめて,文化の進展に寄与すること〉(学校教育法65条)を目的とし,博士のほかに修士の学位が設けられ,修士課程,博士課程の2種から成る研究科で構成されるアメリカ型の大学院が設けられ,私立大学では1950年から,国・公立大学では53年から発足した。当初は2年の修士課程とその上に3年の博士課程が設けられる制度であったが,75年以後制度の多様化がはかられている。現在は,(1)2年の修士課程(または博士課程前期課程),(2)その上に置かれる標準年限3年の博士課程(博士課程後期課程),(3)5年間を一貫する博士課程,の3種の形態があり,このほか,(4)学部や修士課程に基礎を置かない〈独立大学院〉も存在する。
修士課程は専門研究能力の育成と専門職能力の育成,博士課程は自立的に研究活動を行いうる人物の育成が目的とされている(文部省令大学設置基準)。現在大学院を置く大学のうちでは,修士課程だけを置くもの,修士課程と博士課程を置くものが多いが,5年一貫制の博士課程を置くもの,博士後期課程だけの独立大学院を置くもの,修業年限3年の定時制の修士課程を置くものもある。工学,理学系の分野では修士課程への進学がほぼ常識化しているが,他方博士課程修了者の深刻な就職難,いわゆるオーバー・ドクター問題も続いている。人文・社会科学系では博士課程修了がなかなか学位取得に結びつかないという問題も指摘されてきたが,近年かなり改善の傾向が見えてきている。施設・設備の貧弱さも否定できない反面,国・公立大学では博士課程の有無が学部の大学間格差を生みだすという問題もある。しかし,人材養成に果たす大学院の役割には,近年大きな期待が寄せられている。大学審議会は,入学者の大幅な拡充のほか,夜間大学院の開設,通信制大学院の制度化などの方策を検討しており,21世紀に向けて大学院のあり方は高等教育問題の一焦点になるものとみられる。1996年現在,全国で大学院を設置する大学は405校,大学院生数は16万4350人である。その内訳は国立98校,10万5021人,公立32校,7046人,私立275校,5万2283人となっている。修・博両課程を通じて理工系の大学院生の過半を国立大学の大学院が収容しており,人文・社会科学系は私立大学の大学院の比重が高い。
執筆者:寺崎 昌男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…第2の契機は,このドイツの学位制度が,イギリスの大学の影響を強くうけたアメリカの大学に移入されたことである。アメリカは19世紀の半ばあたりから,ドイツにならって大学の機能として研究および研究者の養成を重視し,大学院の制度を発展させていた。そして,ドイツ型のPh.D中心の学位観を導入する一方,大学院の下級課程を修了した者にはマスターの学位を与えるという方向をとった。…
※「大学院」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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