改訂新版 世界大百科事典 「エーグモルト」の意味・わかりやすい解説
エーグ・モルト
Aigues-Mortes
フランス南東部,ガール県にある中世以来の城砦都市。人口4100(1982)。ニームの南方約30km,地中海に近い。エーグ・モルトとは〈死んだ水〉の意であり,東方に広がるカマルグ地方につらなる潟湖の内水に由来する。1240年,カペー朝国王ルイ9世(聖ルイ)が,この地を買収し城郭を建設させた。当時,ルイの王権はフランス北部を勢力範囲としており,地中海への足がかりを欠いていたため,この地を基地として重視した。とりわけ,十字軍派遣の拠点として期待された。完成はルイの死後となったが,城郭は500m×350mのほぼ長方形をとり,4~5mの高さの壁と,10mにおよぶ塔によって守護される堅固なものであった。現在では海岸線の前進のため内陸化したが,当時は海港をもつ軍事基地であった。城郭内部には貿易商人も居住し,最盛時には人口1万5000人をこえた。48年,第7回十字軍はここから派遣され,ジェノバ商人の援助をもえて,700~800人の兵士が遠征にむかった。次いで70年には,第8回十字軍が,ルイ9世自身の指揮のもとに出港した。国王はこの遠征中,チュニスで病死した。その後十字軍用の港としては意味を失ったが,王権に結びついた貿易港として,14世紀中葉までは,高い地位を保った。近代になって没落し,漁港と近在の製塩業がみられるだけであるが,中世の城郭景観を良好に保存した都市として,きわめて貴重である。
執筆者:樺山 紘一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報