改訂新版 世界大百科事典 「オキシ塩素化」の意味・わかりやすい解説
オキシ塩素化 (オキシえんそか)
oxychlorination
炭化水素を塩化水素と酸素または空気を用いて塩素化する反応をいう。炭化水素の塩素化にはふつう塩素が用いられるが,塩化ビニルの製造をはじめとして,炭化水素の塩素化工業の規模が大きくなるにしたがって塩素の不足を生じた。塩素は食塩電解法によって生産されるが,塩素とともに生産される水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の需要が塩素に比べて少ないので,塩素の生産量が水酸化ナトリウムの需要量によって制約されるからである。一方,塩素化工業からは大量の塩化水素が副産される。そこでオキシ塩素化法が発明された。一例として,エチレンのオキシ塩素化反応の化学方程式を次に示す。
H2C=CH2+2HCl+1/2O2─→ClCH2-CH2Cl+H2O
この反応は,触媒として活性炭に担持させた塩化第二銅を用い,170~180℃で行われる。生成した1,2-ジクロロエタンを500~600℃,25~35気圧で熱分解すると塩化ビニルが生産される。すなわち,
ClCH2-CH2Cl─→CH2=CHCl+HCl
ここで生じた塩化水素は再びオキシ塩素化工程へリサイクルされる。上記のオキシ塩素化反応の内容は次のような2段階から成り立つものと考えられている。
H2C=CH2+2CuCl2─→ClCH2-CH2Cl+2CuCl
2CuCl+2HCl+1/2O2─→CuCl2+H2O
オキシ塩素化反応の最初の工業的実施例は,1932年にフランスで行われたベンゼンの塩素化によるクロロベンゼン経由のフェノール合成であるとされているが,今日,このプロセスは行われていない。
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報