日本大百科全書(ニッポニカ) 「カクテル・パーティ」の意味・わかりやすい解説
カクテル・パーティ
かくてるぱーてぃ
The Cocktail Party
イギリスの詩人T・S・エリオットの詩劇。1949年エジンバラで初演。パーティを開く直前に妻が家出して夫が慌てるという滑稽(こっけい)な出だしで始まるが、劇の進行とともに宗教的な主題が明らかになり、不毛な情事におぼれていた人々が回心して、蛮地における殉教の道や、世俗人の静かな信仰の生活を選ぶ。第二次世界大戦後のロンドンの知識人たちを登場させて、風俗劇に仕立てているが、策略によって人々を信仰へ導く謎(なぞ)めいた精神科医や、その助手役を務める男女の登場は、この劇に象徴的な奥行を与えている。作者はエウリピデスの劇『アルケースティス』を下敷きにして現代を描き、エリザベス朝演劇の無韻詩(ブランク・バース)を今日の日常会話体に移し換えて、巧みに重層的な構成をつくりだしている。
[高松雄一]
『福田恆存訳『カクテル・パーティ』(1954・新潮社)』