イエス・キリストが最初に行った奇跡(《ヨハネによる福音書》2:1~11)。ガリラヤのカナCanaという町の婚礼に聖母マリアや弟子たちとともに招かれたイエスは,宴のブドウ酒が尽きたことを聖母から知らされ,6個の水がめに注いだ水を良質のブドウ酒に変える。この奇跡はパンと魚の奇跡とともに最後の晩餐を示唆するものと解釈され,早く(4世紀ころ)から美術に表現された。キリストが手に持った杖で傍に並べられたかめにふれている表現(ローマ,サンタ・サビーナ聖堂の木製扉の浮彫など)が見られ,やがて聖母の姿が加わり,10世紀ころから,この主題はテーブルを囲む祝宴の情景として表現されるようになった。かめにブドウ酒を注ぐ料理人や味見をする料理頭の姿が前景に配され,列席する人物の数も増える。16世紀以降のイタリアでは,この主題はもっぱら豪華な祝宴の風俗画的表現の口実として用いられた。この奇跡は《ヨハネによる福音書》にのみ語られているので,花婿はヨハネ自身とみなされ,そのように表現されることもある。
執筆者:荒木 成子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報