改訂新版 世界大百科事典 「カラス事件」の意味・わかりやすい解説
カラス事件 (カラスじけん)
L'affaire Calas
フランスでおきた異端迫害の冤罪事件。1762年3月9日,トゥールーズ高等法院は,同市フィラチエ街の衣料店主カラスJean Calas(1698-1762)に死刑を宣告した。プロテスタントの彼が,カトリックに改宗しようとした長男マルクを絞殺した(1761年10月13日夜)というのである。62年2月19日にはプロテスタント牧師ロシェット,グルニエ3兄弟が処刑されている。カトリック側の不寛容の狂信による迫害である。モントーバンのプロテスタント活動家リボットは,ルソーとボルテールに援助を求める。ルソーは拒否,ボルテールも当初は気のりうすだったが,しだいに判決を疑い,4月前後から無罪を確信してフェルネーにカラス擁護秘密委員会を組織,ダランベールらパリの知識人を動かして,激烈な運動を展開する。無実を訴えるパンフレット《カラス未亡人の手紙抜粋》(6月15日),《大法官殿へ,ドナ・カラスより》(7月7日)など,いずれもボルテールの書いたものである。努力は報いられ,参事院は64年6月4日,判決の無効を決定する。彼の名著《寛容論》は,この闘争渦中の1763年に出版されている。
執筆者:香内 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報