改訂新版 世界大百科事典 「ギーラーン」の意味・わかりやすい解説
ギーラーン
Gīlān
カスピ海南西沿岸のイランの地方名。現在は州を構成している。古代にギルGil族(ゲラエGelae族)の住地であったことにこの地名は由来する。また山地にはダイラム人が住み,ここをダイラム地方とも称した。住民はペルシア語の方言ギーラキーGīlakīを話す。エルブルズ山脈とカスピ海にはさまれた狭小な平野で,気候は温暖,年降水量は1000mmをこす。セフィード・ルードSefīd Rūd川など多くの川がカスピ海に注いでいる。米,茶の主産地で,米は全国生産の50%強,茶は90%強のシェアを占めるほか,かんきつ類,タバコも多く産する。漁業も盛んである。絹の産地としても有名で,中世以来当地方産の絹がヨーロッパに輸出されていた。州都はラシュト,ほかにエンゼリー,アスタラー,ランゲルードなどの町がある。
山に守られた難攻の地であったため,アラブ,トルコ,モンゴルの侵入を免れ,ジャールZiyāl朝(927-1090ころ),ブワイフ朝,カークワイフKākwayh朝(1008-51)などの地方政権が成立した。サファビー朝のシャー・アッバース1世に1592年に征服されてからイランの直接の支配が及んだ。1724-34年の間はロシア領であり,1813年のゴレスターン条約によってその一部をロシアに割譲,アスタラー川がロシアとの国境となった。20世紀初めに当地方の住民は王の専制に対し蜂起し,立憲制を守った(イラン立憲革命)。1917-21年はボリシェビキの支配下にあり,その支持を受けたギーラーン・ソビエト共和国が,クーチェク・ハーンを指導者にこの地方に成立した(1921年10月崩壊)。
執筆者:岡﨑 正孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報