改訂新版 世界大百科事典 「クレビヨン父子」の意味・わかりやすい解説
クレビヨン父子 (クレビヨンふし)
クレビヨン父Prosper Jolyot de Crébillon(1674-1762)はフランスの悲劇作家。ディジョンで生まれ,1705年《イドメネ》でデビュー。この処女作にすでに,演劇的効果としての“恐怖”への傾向が見られたが,ラシーヌ以後のフランス悲劇に新風をもたらそうと,好んで残虐な事件を扱った彼の手法は,以後《アトレとティエスト》(1707),《エレクトル》(1708),特に《ラダミストとゼノビ》(1711)などの作品を生み,かなりの成功を収めた。しかし今日では作為が勝ちすぎたものとして,あまり評価されていない。31年アカデミー会員。
クレビヨン息子Claude-Prosper Jolyot de C.(1707-77)は小説家。才気に富み,若いころから上流社交界に出入りして,その風俗と愛欲心理を格調のある文体で描いた。代表作は《心の迷い,気の迷い》(1736),《ソファ》(1745),《夜とそのとき》(1755)などであるが,なかでも《ソファ》が有名。輪廻の法則によってかつてソファであった若い廷臣が,自分のうえで過ごされた男女のひめごとを次々に王に語って聞かせるという設定の好色本で,感傷を排した大胆な分析で18世紀の退廃的な空気を伝えている。
執筆者:渋沢 孝輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報