日本大百科全書(ニッポニカ) 「サシガメ」の意味・わかりやすい解説
サシガメ
さしがめ / 刺椿象
刺亀虫
assassin bugs
昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目サシガメ科Reduviidaeに属する昆虫の総称。体形は糸状のものから扁平(へんぺい)なものまでいろいろで、腹部結合板が幅広く、腹部が葉状に広がるもの、体全体に棘(きょく)状突起のあるもの、太くて筒状のもの、触角、脚(あし)、腹部に長毛を有すものなどがある。頭部は円筒状で、しばしば長くなり、複眼は球形で突出し、単眼は頭頂部後方に通常2個あるが、ときに欠くことがある。口吻(こうふん)は太く短く、普通3節からなる。触角は4節で細長く、第3、第4節が数小節に分かれるもの(アカシマサシガメ亜科)もある。前翅は全体的に膜質であることが多く、2個の大きな翅室がある。脚の跗節(ふせつ)は1~3節。普通、前胸部腹板中央にある細かな横溝に口吻先端を前後にこすって発音する。
サシガメ科は約30亜科に分類され、世界で3000種以上が知られており、熱帯地方にとくに多くの種が分布する。日本からは8亜科に約50種が記録されている。地上および植物体上で生活し、ほかの昆虫などを捕食する。このような食性から、害虫の天敵として知られる種が多い。しかし、なかには吸血性の種があり、ヒトの血液を吸い、トリパノソーマなどの病原体を媒介するものも知られる。
日本産サシガメ類の生活もいろいろで、草上などで鱗翅(りんし)類の幼虫や、ハムシ幼虫、成虫などを捕食するもの(ビロードサシガメ、シマサシガメ、アカサシガメなど)、地上でアリやほかの小昆虫などを捕食するもの(ハリサシガメ、クロサシガメ、キイロサシガメなど)、マツ樹皮下で誘引物質を分泌することによりアリを捕食するもの(フサヒゲサシガメ)などが知られている。オオトビサシガメやキイロサシガメなどを不用意にとらえようとすると、口吻で指などを刺されることがあり、非常に痛い。越冬態は成虫のことが多いが、ヨコヅナサシガメやヤニサシガメは幼虫態で集団越冬することが知られている。近縁の群にマキバサシガメ科Nabidaeがあるが、口吻が4節からなる点で容易に区別できる。
[林 正美]