日本大百科全書(ニッポニカ) 「カメムシ」の意味・わかりやすい解説
カメムシ
かめむし / 椿象
亀虫
shield-bugs
昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目Heteropteraに含まれる昆虫で、狭義ではカメムシ科Pentatomidae(あるいはカメムシ上科Pentatomoidea)に属すものの総称であり、広義では異翅亜目のなかで陸生のものをさす。これは陸生カメムシ類Geocorisaeとよばれ、分類学的には顕角群Gymnocerataの多くを占め、半水生のアメンボ類(顕角群)や、タガメ、マツモムシなどの水生異翅類(隠角群)と区別される。
[林 正美]
広義のカメムシ類
日本産は約20科に分類され、約1000種が知られている。体形は、円形、六角形から細長い糸状のものまでさまざまで、大きさも1ミリメートルから30ミリメートル近くまである。カメムシ科をはじめとして、ツノカメムシ、エビイロカメムシ、ノコギリカメムシ、クヌギカメムシ、マルカメムシ、ツチカメムシ諸科(以上、カメムシ上科)のほか、ヘリカメムシ、ナガカメムシ、ホシカメムシ、オオホシカメムシ、イトカメムシ、クビナガカメムシ、マキバサシガメ、サシガメ、ヒラタカメムシ、トコジラミ、カスミカメムシ(旧称メクラカメムシ)、ダルマカメムシ、ハナカメムシ、グンバイムシ、ミズギワカメムシなどの科が知られている。
[林 正美]
生態
多くは植物体に針状の口吻(こうふん)を突き立てて吸汁するが、なかには、カメムシ科の一部、サシガメ科、マキバサシガメ科などのように、ほかの昆虫などの体液を吸収する肉食性のものがある。また、トコジラミ科のトコジラミはナンキンムシ(南京虫)ともいわれ、ヒトの血を吸う。
卵は卵塊として産まれ、ツノカメムシ科、カメムシ科、ツチカメムシ科の一部では、雌は卵塊を体で覆うなどして外敵の攻撃から卵を守る。また、クヌギカメムシ類は非常に大きな紐(ひも)状の卵塊を産み、卵の周囲は寒天様の物質で覆われる。真冬に孵化(ふか)した幼虫は、萌芽(ほうが)までの数か月間、その物質から栄養をとる。一般に、幼虫期は1~5齢で、十分成長した幼虫は5回目の脱皮で成虫となる。越冬態もいろいろであるが、成虫態で越冬するものが多い。
カメムシはヘッピリムシともよばれるように、手でとらえると青臭い強烈なにおいを出す。このにおいは、成虫では胸部腹面(中脚と後脚の間)に、幼虫では腹部背面に開口する臭腺(しゅうせん)から出される油状の液体で、敵を撃退するのに効果的である。しかし、このにおいもすこしずつ出すことによって、仲間と連絡をとる手段となる。幼虫など、集団で生活する場合では、においの強弱は分散を促す警戒信号となったり、仲間を近くに集める誘引物質となったりする。このにおいの化学組成もいくつかわかっており、アルデヒド系化合物のことが多い。
[林 正美]
狭義のカメムシ類――カメムシ科
カメムシ科は世界各地に分布し、世界で約3500種、日本で約90種が知られる。大きさもいろいろで、3ミリメートルから30ミリメートル近くまである。体形は六角形でカメの甲のようであり、胸部の小楯板(しょうじゅんばん)は大きく三角形で、ときには腹部全体を覆う(キンカメムシ亜科)。頭部背面は平たく楯(たて)状、複眼は小さく、頭頂には2個の単眼がある。触角は5節からなり、口吻は4節。脚(あし)の跗節(ふせつ)は3節で、この点で、よく似たツノカメムシ科(跗節は2節)と区別できる。卵は壺(つぼ)形で、上部には蓋(ふた)があり、幼虫はその蓋を開けて出てくる。長い口吻をもち、普通、植物体より吸汁するが、クチブトカメムシ亜科ではほかの小昆虫(とくに鱗翅(りんし)類の幼虫)をとらえてその体液を吸う。成虫で越冬する種がほとんどであるが、アカスジキンカメムシなどは終齢(5齢)幼虫で越冬する。なお、エビイロカメムシ、ノコギリカメムシは現在はそれぞれ独立した科に分類されている。
[林 正美]