カメムシ(英語表記)stink bug

翻訳|stink bug

改訂新版 世界大百科事典 「カメムシ」の意味・わかりやすい解説

カメムシ (亀虫/椿象)
stink bug

半翅目カメムシ科Pentatomidaeおよび近縁の陸生異翅亜目に属する昆虫の総称。イネ害虫クロカメムシのように黒色で体型が動物のカメに似るものがいるのでこの名がある。しかし,体型は種々あって必ずしもカメに似ない。椿象(ちんぞう)は古い中国での呼称で現在は科が用いられる。

 カメムシ科は体長2~40mmくらいで,体は幅広く卵形,または楯形。頭部は三角形で複眼間の幅は広い。触角は4~5節,口吻(こうふん)は4節で多くの種類は植食性である。複眼は頭部の基部近くの両側に突出し,単眼は2個あるものとまったくないものとがある。前胸背は大きく,しばしば側角は長く突出する。小楯板(しようじゆんばん)は大きく三角形で,その両側に爪状(そうじよう)部があり,さらにその外側に革質部と膜質部からなる前翅があり,その下に後翅がある。肢は太いが脛節(けいせつ)には杉の葉状に列生したとげはない。跗節(ふせつ)は3節である。

 世界に2500種以上の種があり,日本には約90種が分布する。カメムシ,クチブトカメムシキンカメムシ,クロカメムシ,ノコギリカメムシエビイロカメムシ,ヒロズカメムシなど12亜科に分類され,日本には上記の7亜科が分布。ただしこれらの亜科は学者により科として扱われることもある。以上のうちクチブトカメムシ亜科だけが食虫性で,口吻が太く,他の昆虫の成・幼虫を攻撃し吸食する。

 日本での古名はホウまたはフウで,ホウズキという植物は〈ホウ〉がよくつくのでこの名がついたといわれる。若虫も成虫も臭腺開孔部から臭気の強い油状の液を分泌するので,俗にクサガメヘクサムシヘッピリムシなどと呼ばれる。若虫の臭腺は腹部背面に開孔しているが,成虫では後胸腹面に開孔する。この臭液は外敵を防いだり,フェロモンの役割もある。臭液を急に多量に放出するときは警戒フェロモンとして働き,集合していた若虫が散り,徐々に少量ずつ出すと集合フェロモンとして散った若虫が再び集まるなどの例が知られる。

 山間部などで越冬時多くのカメムシ類が室内に侵入し,その臭気のため不快昆虫としてきらわれる。アオクサカメムシ,ナガメは野菜類の害虫として知られ,クロカメムシ,イネカメムシ,ミナミアオカメムシは稲の害虫として,また果樹類にはクサギカメムシチャバネアオカメムシなどがつき果実を害する。一般に草本の実を好む種類は,その好む熟度の実を求めて点々と植物を移動し,稲穂が乳熟期となると,稲穂に移ってきて斑点米の原因となる。樹木の実の好きな種類は移動しつつ秋には果実を刺して加害する傾向がある。また,直接吸汁の被害のほかに病原菌やウイルス病を伝播(でんぱ)する害も知られる。

 カメムシ科に近縁な陸生異翅類には,ツノカメムシクヌギカメムシヘリカメムシナガカメムシホシカメムシサシガメハナカメムシメクラカメムシなど40以上の科に分類され,いずれもカメムシ類と総称される。また,両生・水生異翅類(アメンボタガメなど)も広い意味のカメムシ類ではあるが,和名の基名としてカメムシがつけられている種類は少ない。
執筆者: カメムシは英語では単にバッグbugといい,フランス語ではピュネーズpunaiseと呼ぶが,両者ともにまず第1にトコジラミナンキンムシ)を指す語である。熱帯には大型のサシガメの類が分布するが,C.ダーウィンビーグル号の航海から帰って後,一生頭痛もちになったのは,アンデス山中でベンチュウカというサシガメの一種を採集し,それを飼育するために血を吸わせた際,この虫の媒介するシャガス病にかかったからであるという説がある。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カメムシ」の意味・わかりやすい解説

カメムシ
かめむし / 椿象
亀虫
shield-bugs

昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目Heteropteraに含まれる昆虫で、狭義ではカメムシ科Pentatomidae(あるいはカメムシ上科Pentatomoidea)に属すものの総称であり、広義では異翅亜目のなかで陸生のものをさす。これは陸生カメムシ類Geocorisaeとよばれ、分類学的には顕角群Gymnocerataの多くを占め、半水生のアメンボ類(顕角群)や、タガメ、マツモムシなどの水生異翅類(隠角群)と区別される。

[林 正美]

広義のカメムシ類

日本産は約20科に分類され、約1000種が知られている。体形は、円形、六角形から細長い糸状のものまでさまざまで、大きさも1ミリメートルから30ミリメートル近くまである。カメムシ科をはじめとして、ツノカメムシ、エビイロカメムシ、ノコギリカメムシ、クヌギカメムシ、マルカメムシ、ツチカメムシ諸科(以上、カメムシ上科)のほか、ヘリカメムシ、ナガカメムシ、ホシカメムシ、オオホシカメムシ、イトカメムシ、クビナガカメムシ、マキバサシガメ、サシガメ、ヒラタカメムシ、トコジラミ、カスミカメムシ(旧称メクラカメムシ)、ダルマカメムシ、ハナカメムシ、グンバイムシ、ミズギワカメムシなどの科が知られている。

[林 正美]

生態

多くは植物体に針状の口吻(こうふん)を突き立てて吸汁するが、なかには、カメムシ科の一部、サシガメ科、マキバサシガメ科などのように、ほかの昆虫などの体液を吸収する肉食性のものがある。また、トコジラミ科のトコジラミはナンキンムシ(南京虫)ともいわれ、ヒトの血を吸う。

 卵は卵塊として産まれ、ツノカメムシ科、カメムシ科、ツチカメムシ科の一部では、雌は卵塊を体で覆うなどして外敵の攻撃から卵を守る。また、クヌギカメムシ類は非常に大きな紐(ひも)状の卵塊を産み、卵の周囲は寒天様の物質で覆われる。真冬に孵化(ふか)した幼虫は、萌芽(ほうが)までの数か月間、その物質から栄養をとる。一般に、幼虫期は1~5齢で、十分成長した幼虫は5回目の脱皮で成虫となる。越冬態もいろいろであるが、成虫態で越冬するものが多い。

 カメムシはヘッピリムシともよばれるように、手でとらえると青臭い強烈なにおいを出す。このにおいは、成虫では胸部腹面(中脚と後脚の間)に、幼虫では腹部背面に開口する臭腺(しゅうせん)から出される油状の液体で、敵を撃退するのに効果的である。しかし、このにおいもすこしずつ出すことによって、仲間と連絡をとる手段となる。幼虫など、集団で生活する場合では、においの強弱は分散を促す警戒信号となったり、仲間を近くに集める誘引物質となったりする。このにおいの化学組成もいくつかわかっており、アルデヒド系化合物のことが多い。

[林 正美]

狭義のカメムシ類――カメムシ科

カメムシ科は世界各地に分布し、世界で約3500種、日本で約90種が知られる。大きさもいろいろで、3ミリメートルから30ミリメートル近くまである。体形は六角形でカメの甲のようであり、胸部の小楯板(しょうじゅんばん)は大きく三角形で、ときには腹部全体を覆う(キンカメムシ亜科)。頭部背面は平たく楯(たて)状、複眼は小さく、頭頂には2個の単眼がある。触角は5節からなり、口吻は4節。脚(あし)の跗節(ふせつ)は3節で、この点で、よく似たツノカメムシ科(跗節は2節)と区別できる。卵は壺(つぼ)形で、上部には蓋(ふた)があり、幼虫はその蓋を開けて出てくる。長い口吻をもち、普通、植物体より吸汁するが、クチブトカメムシ亜科ではほかの小昆虫(とくに鱗翅(りんし)類の幼虫)をとらえてその体液を吸う。成虫で越冬する種がほとんどであるが、アカスジキンカメムシなどは終齢(5齢)幼虫で越冬する。なお、エビイロカメムシ、ノコギリカメムシは現在はそれぞれ独立した科に分類されている。

[林 正美]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カメムシ」の意味・わかりやすい解説

カメムシ

(1) 半翅目異翅亜目のうち水生,半水生の類とグンバイムシトコジラミなどの科を除いた陸生種の総称で,多数の上科,科を含む。通常胸部に著しい臭腺が発達していて独特の臭気 (多くは悪臭) を発する。体形はさまざまであるが,いずれも三角形の小楯板 (しょうじゅんばん) が発達している。口器は長いになり,宿主植物や他の動物の体液を吸収する。 (2) Pentatomidae; stinkbug 狭義ではカメムシ科に属する昆虫の総称。体長2~40mm。多くは中型で体は幅広く,卵形ないしほぼ五角形のものが多い。頭部は三角形で前方にせばまり,複眼は基部両側にあって突出する。単眼は2個。触角は5節,まれに4節で体長よりやや短い。口吻は4節で長く,植食性のもの (カメムシ科の大多数が含まれる) では細いが,食虫性のもの (クチブトカメムシ亜科のみ) では幅広い。前胸背は三角形ないし台形で大きく,後側角が突出するものが少くない。小楯板も三角形で大きく,なかには腹部の大部分をおおうもの (クロカメムシ亜科など) もある。前翅は基半分が革質の半翅鞘になり,先端の膜質部との境は明瞭である。肢はあまり長くなく,跗節は3節。世界に約 5000種,日本に約 90種を産する。普通植物の茎などから液を吸収し,農業上害となるものが多い。近縁種に,クヌギカメムシ Urostylidae,ツチカメムシ Cydnidae,マルカメムシ Plataspidae,キンカメムシ,ノコギリカメムシ Dinidoridae,ツノカメムシ Acanthosomatidaeなどの諸科がある。 (→異翅類 , 半翅類 )

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「カメムシ」の意味・わかりやすい解説

カメムシ

半翅(はんし)目異翅亜目(カメムシ亜目)の昆虫の総称。狭義にはカメムシ科とその近縁の数科に属する種類をいう。前翅の大部分がキチン化してかたく,先端部だけが膜質になっている。口器は長い管状で,植物の汁や他の昆虫・脊椎動物の血液を吸う。多くの種類は中胸下面の両側方に臭腺があり,悪臭のある分泌液を出す。ヘクサムシ,ヘッピリムシなどの俗称があり,きらわれる。アオクサカメムシイネカメムシなど農業,園芸上の害虫も多い。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のカメムシの言及

【臭腺】より

…また臭腺の分泌するにおいの物質のなかには,ジャコウジカの麝香やジャコウネコの麝猫香(じやびようこう)のように香料の材料として人類に利用されているものもある。 昆虫では,半翅(はんし)目のカメムシ類が,悪臭を発することでよく知られている。成虫は,胸部の後脚の根元に開口する1対の分泌腺を持っている。…

※「カメムシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android