サハリン2事件(読み)さはりん2じけん/さはりんつーじけん

知恵蔵 「サハリン2事件」の解説

サハリン2事件

ロシアの天然資源省は2006年9月18日に突然、「サハリン2」の工事承認を、その環境破壊を理由に取り消した。サハリン2はサハリン北東部沖の天然ガス、石油開発プロジェクトで、その権益はすべてロシア国外の資本、つまりロイヤル・ダッチ・シェルが55%、三井物産が25%、三菱商事が20%有していた。事業主体はこれら3社が株主となるサハリン・エナジー社で1994年4月に設立。サハリンの北から最南端のプリゴロドノエまで約800キロメートルのパイプラインを敷設し、プリゴロドノエには世界最大規模の最新式液化天然ガス(LPG)工場を日本企業が中心となって建設中で、工事は8割近く進んでいた。生産されるLPGの半分以上を日本の電力、ガス会社が購入予定で、2008年から東京電力が年150万t、東京ガスが110万t、その後九州電力、東北電力もそれぞれ50万t(09年)、42万t(10年)輸入する契約を結んでいる。このプロジェクトは生産分与契約(PSA)に基づくもので、投資企業が投資額を回収するまでは生産物をすべて所有し、ロシア政府には利益の6%しか入らない。ロシアはこの契約がロシアに極めて不利だとして、このプロジェクトにロシア企業を参加させるよう圧力を加えていた。環境破壊という理由は、ロシア企業を参入させるための口実とみられている。その後、最終的にはロシアの事実上の国営会社であるガスプロム社が権益の50%プラス1株、ロイヤル・ダッチ・シェルが27.5%マイナス1株、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を保有することで、またサハリン・エナジー社が提出した環境改善計画が承認されたことで、07年10月に問題は決着し、1年以内に工事を完成することになった。欧米諸国はロシアの強引な手法を批判したが、このサハリン2事件は、ロシアへの投資のリスクを改めて認識させることになった。

(袴田茂樹 青山学院大学教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報