東京電力(読み)とうきょうでんりょく(英語表記)The Tokyo Electric Power Company, Incorporated

日本大百科全書(ニッポニカ) 「東京電力」の意味・わかりやすい解説

東京電力
とうきょうでんりょく

2016年(平成28)まで存在した、おもに首都圏を供給区域とした日本の民間電力会社。かつては世界最大規模の電力会社であったが、2011年の福島第一原子力発電所の事故後、巨額の処理費用をまかなうため実質国有化された。さらに電力小売りの全面自由化(2016)や発送電分離(2020)に備え、2016年4月に、持株会社の東京電力ホールディングス(株)の傘下に燃料調達・火力発電事業、送配電事業、電力小売り事業の3子会社を抱える企業グループへ移行した。

 1883年(明治16)設立の東京電燈を前身とする日本最古の電力会社であった。1951年(昭和26)、電気事業再編成の一環として旧関東配電の供給区域と日本発送電の設備の一部を継承して発足。当初は水力発電所、1950年代後半から火力発電所、1970年代以降は原子力発電所を相次いで建設し、2010年の電源構成比(同)は火力59%、原子力27%、水力14%であった。福島第一・第二原子力、柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原子力、鹿島(かしま)火力、富津(ふっつ)火力など多数の発電所を保有し、販売電力量(2010年度)は2934億キロワット時と世界でも十指に入る規模であった。木川田一隆(きかわだかずたか)、平岩外四(ひらいわがいし)ら歴代の社長・会長は財界トップや政府の各種審議会委員を務めるなど日本の経済界を代表する存在であった。単に日本のエネルギー政策だけでなく、インフラ整備や通信自由化などでも指導的な役割を果たした。しかし2011年の東日本大震災で福島第一原発が全電源を喪失して冷却不能に陥り、炉心溶融や放射性物質の大量放出という過酷事故を起こした。損害賠償、放射性物質の除染、事故原発の廃炉などの処理費用は20兆円を超えると試算(2016年、経済産業省)されている。巨額費用を東京電力単独では支払いきれないため、2012年に東京電力は原子力損害賠償支援機構(現、原子力損害賠償・廃炉等支援機構)を通じて政府の出資を受け入れ、実質的に国有化された。

[矢野 武 2017年12月12日]

『東京電力社史編集委員会編『東京電力三十年史』(1983・東京電力株式会社)』『東京電力株式会社編・刊『関東の電気事業と東京電力』(2002)』『橘川武郎著『日本電力業発展のダイナミズム』(2004・名古屋大学出版会)』

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知恵蔵 「東京電力」の解説

東京電力

関東1都6県と山梨県の全域及び静岡県の一部をサービス区域とする電力会社で、東京都千代田区に本社を置く。正式名称を東京電力株式会社、略称は「東電」または「TEPCO」。日本の電力10社中で突出した事業規模で、世界最大級の民間電力会社。
東京電力の販売電力量は、イタリア1国分に匹敵する3千億キロワット時で、日本の総販売電力量の3分の1を占める。総資産も1兆4千億円を超え、ともに関西電力の約2倍の規模に相当。EDF(フランス電力公社)やE.ON(ドイツの旧国営会社)、GDFスエズ(旧フランスガス公社)、ENEL(旧イタリア国営)などの世界の電力トップ企業各社と肩を並べる。
東京電力の創立は1951年。太平洋戦争に向けた国家総動員体制の中で、日本各地の電力事業は、国策企業である日本発送電株式会社と9地域に分かれる配電会社に統合された。終戦後、この国家的な電力統制体制は、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の占領下における財閥解体の一環として、ポツダム政令によって再編された。これが、東京電力を含む現在の9電力会社(沖縄電力を除く)体制の原形である。東京電力の第5位の株主が東京都、関西電力の筆頭株主が大阪市であるように、自治体が金融機関や保険会社などと並び電力各社の株式を所有している。これは、戦後に自治体が電力設備を電力会社に引き渡したり、市街地の電柱、電線の整備を行ったりした経緯で株式を取得したためである。
戦後の電力供給体制の確立以降、自家発電などを除けば電力供給は地域ごとの電力各社による完全独占による公益事業となった。このため、電気料金は公共料金として政府が上限を認可する。料金算定の方式は総括原価制と呼ばれ、諸経費などの原価に一定の率を乗じた額が電力会社の報酬として確保され、その合計を総括原価とする。総括原価によって電気料金の基本が決まり、燃料価格の変動分を調整する額を合算したものが、家計が支払う電気料金となる。この方式には、コストを削減する誘因が働かないなどの弊害があり、巨額の投資を要する原子力発電所などの建設を競って進める要因にもなったとの見方もあり、経済産業省で見直しが進められている。なお、95年の電気事業法改正で特定電力事業者の参入が認められ、2000年からは、小売市場の部分的自由化も可能となったが、極めて限定的なものにとどまり、発送電分離の声が強い。
11年3月の東日本大震災による福島第一原子力発電所の深刻な事故では、「想定外の天災」であるかのような無責任な対応や情報公開の遅さなど、多くの問題点が指摘された。02年に発覚した原子力発電所事故隠しなどのコンプライアンス欠如に加え、ガバナンスも不在ではないのかとの声が高まり、企業としてのあり方そのものが問われている。福島の事故による損害賠償や廃炉費用のため、巨額の負担を抱えることになり国の資金注入は避けられない。東京電力と政府原子力損害賠償支援機構が策定する総合特別事業計画に、同社の一時的な国有化及びその後の分離・改革などについて盛り込まれることになっている。

(金谷俊秀  ライター / 2012年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「東京電力」の意味・わかりやすい解説

東京電力[株] (とうきょうでんりょく)

日本最大の電力会社で,関東一円を電力供給エリアとする。東電と略称。私営電力会社としても世界最大の規模をもつ。1951年,電気事業再編成令に基づき,関東配電(株)の設備と日本発送電(株)の設備の一部を引き継いで,発電,送電,配電を一貫して経営する電力会社として発足した。東電の前身は,1883年設立の日本最初の電力会社有限責任東京電灯会社である。同社は電力会社間の競争の時代を経て,合併,買収などにより企業規模を拡大していった。明治から大正にかけては,横浜電気(1889設立),日本電灯(1889設立),東京電力(1906設立),富士水電(1907設立),猪苗代水力電気(1911設立),京浜電力(1919設立)など,創立以来1939年までに67社を合併・買収した。昭和10年代に入り電力国営化論が強まり,東京電灯(株)その他の電気事業会社がその発電・送電設備を譲渡して,39年日本発送電が発足した。41年には配電統制令により,配電も全国九つの配電会社に統合されることになり,東京電灯も42年に設立された関東配電に統合された。この日本発送電と関東配電の2社が東電の母体となったわけである。発足後は業界のリーディング・カンパニーとしての役割を果たしてきた。60年代から火力発電所の大容量化と送電幹線の高圧化,電源多様化の一環としてLNG火力発電(1969),原子力発電(1971),COM(石炭石油混合燃料)発電(1984)などを行ってきた。情報通信事業にも進出している。資本金6764億円(2005年9月),売上高5兆0472億円(2005年3月期)。2011年の福島原子力発電所事故を契機に経営が悪化し,12年に公的融資が行われた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「東京電力」の意味・わかりやすい解説

東京電力
とうきょうでんりょく
Tokyo Electric Power Company, Incorporated

電力会社。1951年電気事業再編成令により関東配電と日本発送電株式会社の共同出資で設立。電力供給区域は関東一円,山梨県,静岡県(富士川以東)。民間電力会社としては世界最大で,日本における原子力発電の先導的役割を果たした。関連会社に君津共同火力,常磐共同火力,日本原子力発電,東京発電などがある。2011年3月福島第一原子力発電所事故が発生。事故からの復旧,損害賠償の実施および電力の安定供給を目指し,政府の原子力損害賠償支援機構(2011.9.設立)から公的資金の投入を受け,2012年7月実質国有化された。

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日本の企業がわかる事典2014-2015 「東京電力」の解説

東京電力

正式社名「東京電力株式会社」。略称「TEPCO」。英文社名「Tokyo Electric Power Company, Incorporated」。電気・ガス業。昭和26年(1951)設立。本社は東京都千代田区内幸町。世界最大級の民間電力会社。供給区域は関東地方の1都6県と山梨県および静岡県の一部。前身は明治16年(1883)設立された「有限責任東京電燈会社」。東京証券取引所第1部上場。証券コード9501。

出典 講談社日本の企業がわかる事典2014-2015について 情報

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