改訂新版 世界大百科事典 の解説
サンジャヤ・ベーラッティプッタ
Sañjaya-Belaṭṭhiputta
前6~前5世紀の古代インドの思想家。生没年不詳。不可知論者,懐疑論者とされる。釈迦と同時代の人で,伝統的バラモン文化の価値観を否定した自由思想家の一人。漢訳仏典では散若夷毘羅梨沸と音写される。マガダ国の首都王舎城に住したとされ,後に仏陀の弟子となった舎利弗と目連は彼の弟子であった。その思想は,《沙門果経》などの仏典の中で,否定されるべき異説(〈六十二見〉〈六師外道〉)として扱われている資料から推察できる。彼は真理をあるがままに認識し説明することは不可能として不可知論を説いた。また,〈あの世はあるのか〉〈善悪二業の報いはあるのか〉といった形而上学的問題には判断中止の立場で確答を避け懐疑論の立場をとったため,〈鰻のように捕らえがたい論議〉ともいわれた。彼の懐疑論は仏陀の無記説(形而上学的質問には黙して答えない立場)に影響を与えたとも考えられ,ジャイナ教の相対主義にも影響を与えたとされている。
執筆者:高橋 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報