懐疑論(読み)カイギロン

デジタル大辞泉 「懐疑論」の意味・読み・例文・類語

かいぎ‐ろん〔クワイギ‐〕【懐疑論】

哲学で、人間の認識力を不確実なものとし、客観的、普遍的真理の認識の可能性を疑っていっさいの判断を差し控える態度。懐疑主義

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精選版 日本国語大辞典 「懐疑論」の意味・読み・例文・類語

かいぎ‐ろんクヮイギ‥【懐疑論】

  1. 〘 名詞 〙 あることについて、そのものの価値存在などを疑うような考え。哲学では、すべての認識について、その主観性相対性力点をおくため、客観的、普遍的真理の認識の可能性を信じないで、断定的判断を原理的にさしひかえる態度、またはその思想。懐疑主義。⇔独断論。→懐疑派。〔和漢大辞典(1919)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「懐疑論」の意味・わかりやすい解説

懐疑論 (かいぎろん)

〈検討〉を意味するギリシア語skepsisに由来する西洋哲学用語(英語ではskepticism)の訳として用いられる語。人間的認識の主観性と相対性を強調して,人間にとって普遍的な真理を確実にとらえることは不可能だとする思想上の立場。独断論dogmatismに対する。広義にはあらゆる普遍妥当的な真理の認識可能性を否定する立場を指すが,狭義には特定の領域,例えば宗教や道徳において確実な真理に到達する可能性を否定する立場を指すのにも用いられる。このような立場は,一方では人間の思考や認識に対する否定的な態度さらにはニヒリズムにつながるが,他方では断定的な判断を避け,経験と生とを導きの糸として探究を続行しようとする実証主義的態度にもつながる。また懐疑論はつきつめていけば論理的矛盾に陥る--〈真理の認識は不可能である〉という断定は真理に関する一つの絶対的判断である--ので純粋な形では主張することができないが,それほど徹底しない場合でもそれ自身のために主張されるよりは,従来の見解を打倒するための武器あるいは疑うことのできない真理を発見するための手段(デカルトの方法的懐疑はその典型)として用いられることが多い。

 西洋哲学史上,懐疑論がとくに問題になるのは古代と近世初期である。古代の懐疑派は通常三つの時期に区別される。初期にはピュロン(その名に由来するピュロニズムは懐疑論の別名となった)とその弟子ティモンTimōnがおり,彼らは何事についても確実な判断を下すのは不可能であるから,心の平静(アタラクシア)を得るためには判断の留保(エポケー)を実践すべきことを説いた。中期はプラトンゆかりの学園アカデメイアの学頭であったアルケシラオスArkesilaosとカルネアデスKarneadēsに代表される。彼らはストア主義を独断論として攻撃し,とくに後者は蓋然的知識で満足すべきことを説いた(アカデメイア派ないし新アカデメイア派の語も懐疑論者の代名詞として用いられることがある)。後期にはアイネシデモスやセクストス・ホ・エンペイリコス等が属するが,前者は感覚的認識の相対性と無力さを示す10の根拠を提示したことで知られ,後者は経験を重んずる医者として諸学の根拠の薄弱さを攻撃し,またその著書はギリシア懐疑論研究の主要な資料となっている。近世においては,ルネサンスの豊かな思想的混乱の中で懐疑思想も復活し,伝統的な思想や信仰を批判する立場からも,逆にそれを擁護する立場からもさまざまなニュアンスの懐疑論が主張されたが,その中でもモンテーニュのそれはたんに否定的なものにとどまらず生を享受する術となっている点で,またパスカルのそれはキリスト教擁護の武器として展開されているにもかかわらず作者の意図を越えて人間精神の否定性の深淵を垣間見させてくれる点でそれぞれ注目に値する。なおD.ヒュームはしばしば懐疑論者のうちに数えられ,彼に刺激を受けたカントについても懐疑論との関係で論じられることもある。
不可知論
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「懐疑論」の意味・わかりやすい解説

懐疑論
かいぎろん
skepticism

人間理性による確実な真理認識をおしなべて否定する哲学的立場。その変形されたものとしては,蓋然性を認める認識論的蓋然主義,経験的現象での真理認識は認めるがその背後なる超越者の認識を否定する不可知論,客観的真理を否定する相対主義などがあり,認識の局面をこえて実践面にそれを適用した宗教的,倫理的懐疑論がある。絶対的懐疑論は真理認識を否定するが,その主張自体は真理であるとしているのであるから,決定的な自己矛盾を含んでいるというのが,アウグスチヌスの批判である。古代の懐疑学派のほかに,近世のモンテーニュやバークリー,経験論を徹底したヒューム,物自体の認識を否定したカントらが懐疑論者と考えられる。

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百科事典マイペディア 「懐疑論」の意味・わかりやすい解説

懐疑論【かいぎろん】

ギリシア語skepsis(〈検討〉)に由来する,英語skepticismなどの訳。人間は普遍的な真理を認識できないとする哲学的立場。独断論に対し,人間的認識の主観性,相対性を主張し,実践的には判断を留保することによって心の平静を得ることを勧める。西洋哲学ではピュロン(ピュロニズムpyrrhonismは懐疑論の別名),デカルト,モンテーニュ,ヒュームなどが代表者。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「懐疑論」の解説

懐疑論(かいぎろん)
skepticism

認識につきまとう主観性・相対性によって,人間は普遍妥当的な認識はできないとする思想上の立場。哲学史上ギリシア末期から存在し,近世にはデカルトカントなど懐疑を超克する試みも重ねられたが,なお克服されずに現代思想に流れ込んでいる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「懐疑論」の解説

懐疑論
かいぎろん
Skeptizismus (ドイツ)
scepticism (イギリス)

普遍的で確実な真理の認識を原理的に疑う立場
独断的な形而上 (けいじじよう) 学や伝統的な神学的世界などに対する批判として積極的な意義をもつ場合もあるが,普遍的・客観的な真理のいっさいを疑うところから,反科学主義や退廃的世界観とも結びつきやすい。古代のピュロンらの懐疑派,また近代ではモンテーニュ・ヒュームらが有名。

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