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不可知論 ふかちろん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

不可知論
ふかちろん

(1) agnosticism 超経験的なものの存在や本質は認識不可能であるとする哲学上の立場。認識の可能領域は現象界に限られ,超越的なものは類比的認識すらも不可能であるが,神や死などの究極的問題について判断を中止することはかえってそれらの存在を認めることになり,信仰に根拠を与えると主張するのは I.カントで,認識可能領域を明示する点で懐疑論と異なる。この認識の限界づけの思想はあらゆる実証主義や現象論の根底にある考え方で,A.コント,H.スペンサー,W.ハミルトンなどはその系列にあり,論理実証主義はその最も極端な例とみることもできる。 (2) ajñānavāda インドでは六師外道の一人サンジャヤが唱えた。彼は,来世が存在するか,善・悪業の果報は存在するかというような形而上学的な問題に関して,ことさら曖昧な返答をして確定的な返答を与えなかった。ここに形而上学的問題に関する判断中止の思想が初めて表明された。原始仏教における無記の思想の起源とみられる。

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デジタル大辞泉の解説

ふかち‐ろん【不可知論】

agnosticism》哲学で、経験や現象とその背後にある超経験的なものや本体的なものとを区別し、後者の存在は認めるが認識は不可能とする。また、後者の存在そのものも不確実とする説。

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百科事典マイペディアの解説

不可知論【ふかちろん】

英語agnosticismの訳。T.H.ハクスリーの造語。一般に究極的実在絶対者,神といったものは人知をもってしては知りえないとする立場。宗教的敬虔の基本的態度として古くよりあるが,近年ではW.ハミルトン,H.スペンサーらが代表的論者。

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世界大百科事典 第2版の解説

ふかちろん【不可知論 agnosticism】

一般に,事物の究極の実在,絶対者,無限者,神は知られえぬと説く立場を指す。原語の中の〈知られえぬagnostic〉という言葉は,T.H.ハクスリーが1869年,《使徒行伝》でパウロの伝えるアテナイの〈知られえぬ神にagnōstō theō〉と刻まれた祭壇に言及しつつ自己の立場を語った講演が起源である。訳語は明治40年代からのものである。ハクスリー以外では,人間の認識を有限なものの経験に制限し,無限で絶対的な神については学的な認識はありえず,ただ信仰による道徳的確信をもちうるのみと説くW.ハミルトン,進化の法則で現象界を説明し認識しうるが,相対的な現象,事実の認識は科学的には思考されえぬ実在ないし力,すなわち〈知られえざるものthe Unknowable〉を前提するとし,現象や事実をその〈表明〉とみなすH.スペンサーなどが不可知論者に属する。

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大辞林 第三版の解説

ふかちろん【不可知論】

所与の感覚的経験以上の実在(究極的真理・神など)を人間は知ることができないとする立場。そうした実在を有りとした上での主張と、その有無すら知れぬとする主張とがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

不可知論
ふかちろん
agnosticism

不可知論の起源を古代ギリシアのソフィストや懐疑論者にまでさかのぼって考えることもできるが、しかし神の本体は人間によっては知られないとする中世の神学思想から始まるとみるのが妥当であろう。つまり、人間は一種の知的直観であるグノーシスgnosisによって神の本体を直接知ることができるとするグノーシス派や本体論者の主張に対し、そうしたグノーシスを否定するのがアグノスティシズム、すなわち不可知論である。
 ローマ・カトリックは、神の存在は人間理性に生まれながらに備わる「自然の光」によって知られるが、しかし神の本体そのものは知られないとして、グノーシスを否定した。神は現世に生きる人間には鏡に映る姿のようにおぼろであり、神と直接に面をあわせることができるのは別の世においてであるという。
 不可知論は、近世に入って、人間は有限な存在でその知力も限られており、世界それ自体が何であるかを知ることはできない、といった哲学説に再登場する。神すなわち自然の属性は無限であるが、そのうち人間が認識できるのは延長(物体)と思考(精神)だけであると説くスピノザ説や、人間の知識は印象と観念に限られていて、それらを超えた事柄は知識の対象にはならないとするヒュームの主張も、ある意味では不可知論であるし、物自体は認識できず、主観形式である時間、空間のうちに与えられる現象だけが認識できるとするカントの『純粋理性批判』での考えも、一種の不可知論といえる。また不可知論という語を初めて用いたといわれるトマス・ハクスリーやスペンサーといった実証論者は、知識を経験可能な事実だけに限り、形而上(けいじじょう)学的な諸問題に関しては、はっきり不可知論を主張したが、この傾向は現代の論理実証主義やその系統を引く分析哲学にも引き継がれている。
 なお19世紀後半のドイツの自然科学者デュ・ボア・レイモンは、「世界の七つの謎(なぞ)」として、〔1〕物質と力の本質、〔2〕運動の原因、〔3〕感覚と意識の成立、〔4〕意志の自由、〔5〕生命の起源、〔6〕有機体の合目的性、〔7〕思考と言語の発達、をあげ、このうち〔5〕から〔7〕までの謎は解けるが、〔1〕から〔4〕までの謎は解くことができず、また将来においてもその解明は不可能であるとして、これらの謎について不可知論を主張した。[宇都宮芳明]

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世界大百科事典内の不可知論の言及

【現象】より

…一つは,時空間的に制約されることのない本体(noumenon)あるいは本質を想定し,それが時空界に現れた姿を現象と考える。カントの現象概念がその典型であり,彼は物のそれ自体における姿つまり物自体と,われわれの感性にとってのその現れつまり現象とを区別し,われわれ有限な人間には物自体は認識不可能であり(不可知論),認識可能なのは現象界だけだと考えた。 それに対して,現象の背後にそうした不可知な本体を想定することは無意味であり,本質とは現象そのもののうちに認められる可知的連関にほかならないとする考え方がある。…

※「不可知論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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