改訂新版 世界大百科事典 「サンタル族」の意味・わかりやすい解説
サンタル族 (サンタルぞく)
Santal
インドのビハール州南部を中心にオリッサ,西ベンガルにかけて居住する原住民部族。人口300万以上を数え(1961),山地の焼畑耕作部族と平地のヒンドゥー農民との中間地域をほぼ居住空間としている。ときにパレモンゴリーデの要素も指摘されるが,基本的には原オーストラロイド人種型を示す。固有の言語はサンターリー語Santaliであり,ムンダ族やオリッサ州山地部族民の言語とともにアウストロアジア語族に属する。サンタル族は,基本的には同じくチョタ・ナーグプル高原に住むオラオン族やムンダ族などとほぼ同じ水準・内容の文化をもつ部族民であるが,とりわけその部族主義的傾向で知られている。実際にはヒンドゥー文化の影響を強く受けており,比較的豊かなクラスの者はヒンドゥー高位カーストの慣習をいろいろ採用しているが,にもかかわらず意識面ではヒンドゥー化を拒否し,ヒンドゥーからの分離を強く志向している。理由は平地から高原に侵出したヒンドゥーが,狡猾なやり方でサンタル族から土地や生計の道を奪っていった歴史的事実にある。そのため,1855年にサンタル族は武装反乱を起こした。反乱は2年後に鎮圧されたが,部族の栄光として彼らの間に歌や物語の形で記憶され,同時に反ヒンドゥー的な部族主義の傾向をいっそう強めることになった。
20世紀中ごろから伝統的な部族宗教を復活させ,さらにはヒンドゥー教やキリスト教のレベルにまでこれを高めようとする運動が展開している。他方,オックスフォードで教育を受けたムンダ族出身の一クリスチャンがヤルカンド政治結社を創設するにおよんで,サンタル族は全面的にこれを支持するにいたっている。部族民の方が多数を占めるチョタ・ナーグプル高原に独立した州をつくろうとするのがこの結社の目的であり,これが部族主義的傾向をもつサンタル族の共感を呼んだことによる。部族問題はインドの重要な内政問題の一つであるが,サンタル族の動向はその代表的な事例をなす。
執筆者:山田 隆治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報