改訂新版 世界大百科事典 「ムンダ族」の意味・わかりやすい解説
ムンダ族 (ムンダぞく)
Munda
インドの中・東部に住む部族の一つで,人口は約600万人。とくにビハール州のチョタ・ナーグプルの丘陵地帯に集中している。本来は北西部インドにいたが,アーリヤ人の侵入を受けて現地帯に移動した。人種的にはプロト・オーストラロイドに属し,言語的には東南アジア大陸部に広がるアウストロアジア語族に属する。ムンダとは〈富裕で信望のある人〉の意味で,ヒンドゥーの人々による呼称であり,ムンダ族自身の自称は〈ホロ〉で人間という意味である。基本的に稲作農耕民で,水田〈ドン〉では水稲を,畑〈タンル〉では陸稲と雑穀を栽培する。狩猟は生業ではないが,春の祭りに村で儀礼的共同狩猟を行う。家族形態は核家族型が卓越し,出自は父方をたどり,相続は息子たちの間での均分相続が原則で,末男が両親とともに住む。人々は動・植物の名前を冠する父系氏族〈キリ〉に属し,同氏族員は誕生,婚姻,葬送等の機会に協力する。村落〈ハツウ〉では村落創設者の子孫たち〈クンティカッティ〉の氏族が主体をなす場合が多い。この氏族は,村の土地の最終的所有権をもち,共同墓地〈ササン〉を独占的に使用し,世襲の村長〈ムンダ〉や司祭者〈パハーンル〉を出す特権的氏族である。村内には若者と娘たちの寝宿〈ギティオラ〉が別々にあり,結婚まで寝泊りする。彼らはここで性知識,民話,道徳,法,伝統的慣習など,村の文化の生きた側面を学ぶ。夜は村人もまじえ,村の広場〈アカラ〉で季節ごとの踊りと歌を楽しむ。婚姻は氏族外婚と部族内婚の厳しい原則に従い,〈エレウリコ〉と呼ぶ占いによって決せられる。嫁入婚が原則である。村内の重要事は,成人男子の集会をアカラなどで開き,討論で決定する。近隣の村々は〈パルハ〉と呼ばれる連合組織に属するが,村内で決着のつかぬ問題(姦通,近親婚,相続争い,境界争い等)はこの組織で審議し,その決定に村人は服さなければならない。
ムンダ族の伝統文化は今日大きく変化しつつある。服装,生活用具,農機具等物質文化はヒンドゥー化が著しい。インドの独立後,産業化や教育の普及に伴い,村を離れて農業以外の職業につく人々も多い。奥地までの宣教の結果,キリスト教に改宗する人々も多い。
執筆者:杉山 晃一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報