改訂新版 世界大百科事典 「サンビクトール学派」の意味・わかりやすい解説
サン・ビクトール学派 (サンビクトールがくは)
パリ郊外のサン・ビクトールSt.Victor修道院(1113建立)に隠退して神秘神学の確立につとめたギヨーム・ド・シャンポーのもとに集まった人々,およびそこに形成された学統を総称する用語。フーゴー,リカルドゥスらがその代表。この学派はたんに神秘主義を重んじただけでなく,哲学と神学の総合をめざしてこれにふさわしい神秘神学を構築したことで,12世紀の神学興隆の一翼をになった。フーゴーはアリストテレスに従って経験からの抽象という自然的認識をおき,これによって理性の優位をみとめたのちに,神観想における精神の上昇を示して信仰を高次のものへと向かわせる。リカルドゥスはおもに神学の領域で活躍し,6巻の《三位一体論》を著したほか,多くの聖書解釈を行い,聖書全体を霊魂の上昇の道としてとらえた。ほかにゴドフロアやゴティエの名が残されているが,この学派はしだいに弁証法的思考を失って衰退し,13世紀以後は後継者を見いださなかった。
執筆者:泉 治典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報