フーゴー(その他表記)Hugo

翻訳|Hugo

改訂新版 世界大百科事典 「フーゴー」の意味・わかりやすい解説

フーゴー(サン・ビクトールの)
Hugo
生没年:1096-1141

初期スコラの神学者,神秘主義者。フランス名はユーグ・ド・サン・ビクトールHugues de Saint-Victor。ベルギーあるいはドイツのザクセン地方に生まれ,1115年パリのサン・ビクトール修道院に入り,のちに院長としてサン・ビクトール学派創始者となった。アウグスティヌスを尊ぶとともに,ディオニュシウス・アレオパギタの神秘主義に影響され,神秘的な神の直視こそ神学の究極目標であるとした。これはボナベントゥーラにうけつがれる〈神秘神学〉のはじめである。フーゴーはこうして信仰を神秘にまで高めるとともに,信仰は理性を排除しないとして,倫理学や自然学も含む哲学一般を認め,この立場に立ってアベラールの人文主義と弁証法を支持した。《学芸論》ではアリストテレスにならって予備学(論理学,文法,修辞学など),理論学(神学,数学,音楽,天文学,自然学など),実践学(倫理学,家政学,政治学)を分けたほか,技術学として織物木工,兵器,航海術,貿易,農耕狩猟,料理,医療,演劇を区分して,当時の学問と技術を百科全書的に網羅した。神学的主著《秘跡論》では秘跡(サクラメント)の神秘性をキリストの受肉の神秘性にもとづいて強調し,これとともに自然と歴史のできごとを三位一体の神の業(わざ)の象徴とみなす世界解釈を行った。自然神学による神の存在証明というスコラ学固有の議論もフーゴーに始まるとみられる。
執筆者:


フーゴー
Gustav Hugo
生没年:1764-1844

ドイツの法学者。ゲッティンゲン大学で学び,講師を経て1792年に教授。第2次人文主義の旗手として〈歴史法学先駆者〉となった。カント的自然法論の立場に立ちつつも,特定の民族の法規や制定法では自然法は直接的には顧慮されていないということから,デカルト以来の理性法論に見られる抽象化・一般化の主張を排し,個別的歴史主義的観察をなさねばならぬと主張した。《実定法の哲学としての自然法論》《民法教程》《新法律エンツィクロペディー》といった著作にそうした歩みが見られるが,しかし彼の構想は次の世代の〈歴史法学の完成者〉と呼ばれたサビニーによって質的には決定的に凌駕されてしまった。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フーゴー」の意味・わかりやすい解説

フーゴー(サン・ビクトールのフーゴー)
ふーごー
Hugo ā Saint-Victor
(1096―1141)

中世フランスの神秘主義的スコラ学者。ザクセン出身。1115年ごろパリのサン・ビクトール修道院(アウグスティヌス会)に入り、1133~1141年その修道院長を務める。深い宗教体験に根ざしながら、哲学と諸学を尊重し、信仰と理性の調和的総合を成し遂げた人物である。「すべてを学べ。しかるのちになにものも無益でないことを覚(さと)るであろう」ということばが、彼の態度を示している。おもな著作として『階梯(かいてい)論』Didascalionと『秘蹟(ひせき)論』De sacramentisがある。前者は自由学科と神学の入門書であるが、自由七学科は互いに連係していて、すべてを捨てることなく学ばねばならないとする。後者は一種の神学大全であり、創造と回復(ロゴスの受肉と秘蹟)という視点から世界史を総合的に把握しようとする。そのほかディオニシウス・アレオパギタの天上位階論の注解を書いた。著作はミーニュ『ラテン教父集』(全217巻。1844~1855)の第175~177巻に収録されている。

[熊田陽一郎 2017年12月12日]

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百科事典マイペディア 「フーゴー」の意味・わかりやすい解説

フーゴー(サン・ビクトールの)【フーゴー】

初期スコラ学者,神秘思想家。1115年パリのサン・ビクトール修道院に入り,のち院長。サン・ビクトール学派の創始者となった。その神秘神学,学問論,秘跡論は,ボナベントゥラなど後世への影響が大きい。主著《ディダスカリコン》。

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367日誕生日大事典 「フーゴー」の解説

フーゴー

生年月日:1764年11月23日
ドイツの法学者
1844年没

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世界大百科事典(旧版)内のフーゴーの言及

【サン・ビクトール学派】より

…パリ郊外のサン・ビクトールSt.Victor修道院(1113建立)に隠退して神秘神学の確立につとめたギヨーム・ド・シャンポーのもとに集まった人々,およびそこに形成された学統を総称する用語。フーゴーリカルドゥスらがその代表。この学派はたんに神秘主義を重んじただけでなく,哲学と神学の総合をめざしてこれにふさわしい神秘神学を構築したことで,12世紀の神学興隆の一翼をになった。…

※「フーゴー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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