日本大百科全書(ニッポニカ) 「シュガーヒル・ギャング」の意味・わかりやすい解説
シュガーヒル・ギャング
しゅがーひるぎゃんぐ
Sugarhill Gang
アメリカのラップ・グループ。1979年にニューヨークで結成され、ラップ・ミュージックの面白さを一般社会に初めて知らせた。ビッグ・バン・ハンクBig Bang Hank(1958― )、マスター・ジーMaster Gee(1963― )、ワンダー・マイクWonder Mike(1958― )による3人組。
ラップ・ミュージックは、70年代に、カリブ海からの移民や黒人の居住地区サウス・ブロンクス(ニューヨーク市)を中心として始まったとされている。当時のニューヨークは財政が破綻し危機的な状況にあったが、同地区はなかでも最下層の人々が住む地域として一般社会から見捨てられたような状態にあった。遊ぼうにも金銭的な余裕などさらさらない地域の青年、子供たちが、ジャマイカのレゲエDJ(レゲエでは、ヒップ・ホップにおけるラッパーにあたる存在をDJと呼ぶ)をヒントにひねり出したのが空き地などで行うダンス・パーティーで、これがブロンクスだけでなくニューヨーク各地域の黒人街へ飛び火したのが70年代の終わりごろだった。
かつてディスコ・ミュージックのシンガーとしても活躍し、当時レコード会社の代表であったシルビア・ロビンソンSylvia Robinson(1936― )が若者たちのこの流行に気づき、上記の3人を集め結成したのがシュガーヒル・ギャングである。シュガーヒルとは、マンハッタン北部の黒人街、ハーレムの一地域に由来する名前であり、ロビンソンが経営する小さなレコード会社の名称でもあった。
シュガーヒル・ギャングは、ニューヨークのダンス・ミュージック・グループ、シックが当時大ヒットさせていた「グッド・タイムズ」 をベースに、「ラッパーズ・ディライト」を録音、79年に発売した。聞き覚えのある歌(「グッド・タイムズ」)の切れ端に、軽快なおしゃべり(ラップ)が重なるこの「奇妙な音楽」は、ニューヨークから発信されるや一気に世界的なヒットとなった。当時、このシングルは800万枚を売り上げたといわれる。
シュガーヒル・ギャングは際立った才能をもつグループではなかったが、ラップ・ミュージックを世界に紹介したことは間違いなく、同じシュガーヒル・レコードで録音しスターとなったグランドマスター・フラッシュのほか、カーティス・ブローKurtis Blow(1959― )、アフリカ・バンバータといった初期ラップの盛り上がりを彩(いろど)るミュージシャンの先駆けとなった。
[藤田 正]