ヨーロッパ31か国で形成するヨーロッパ経済領域(EEA)内のどこか1か国で認可されれば、領域内のどの国でも自由に金融業を営むことができる制度。ヨーロッパ域内での自由な金融取引を促すため、ヨーロッパ投資サービス指令に基づき1996年に導入された。対象領域は、ヨーロッパ連合(EU)加盟の28か国に加え、スイスを除くヨーロッパ自由貿易連合(EFTA)加盟のアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーの3か国。預金や貸出しなどの銀行業務のほか、保険業務、投資サービス業務が対象である。日本では「単一パスポート制度」「単一免許制度」とよばれることもある。
EEA内ではシングルパスポート制度があるため、ヨーロッパ域外の金融機関がシティのあるロンドンにヨーロッパの事業拠点を置く傾向が強く、EU域内の金融機関の拠点のうち約25%はイギリスに集中している。しかし、2016年に行われた国民投票の結果、イギリスがEUからの離脱を決めたため、イギリスに拠点を置く金融機関はシングルパスポート制度を利用したヨーロッパ域内での業務に支障がでてくる懸念がある。このためイギリスからアイルランド、ドイツ、フランスなどへ営業拠点や従業員を移すことを検討するアメリカやアジアの金融機関が相次いでいる。ただ一方で、シングルパスポート制度はイギリスのEU離脱後も現状のまま維持されるとの見方もあり、イギリスとEUとの離脱交渉の過程で、シングルパスポート制度の扱いがどう変わるかに注目が集まっている。
[矢野 武 2017年1月19日]
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